変人野郎を黙らせるには。 (ページ21)

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一時間をどう潰そうかと

悩んだ結果、図書室にいることにした。

図書室へ向かう廊下。

運動部の声が聞こえ始める。

さすがに図書室の鍵は空いて無いだろうな

とは思うものの、

丁度憂鬱そうな表情をした

馬淵先生と鉢合わせた。

図書室使っていいですか、

なんて駄目元で聞いてみれば

すんなり渡された鍵。

この先生は良い具合に適当で助かる。

誰もいない図書室へと足を踏み入れた。

本の匂いが鼻を掠める。

一番窓際の席へ座ると目の前に

乱雑に置かれた本へ目を落とした。

借りた本を返したままで、

本棚へ戻されていないのだろう。

一番上にある分厚い本を手に取ると

ぱらり、一枚のカードが落ちた。

「(貸し出し票か、)」

学年と名前が記載されたそれ。

複数の人の名前に混じって

丁寧に書かれた名前を見つける。

「吉野棗、」

思わず口にして気付く。

誰も居ないからと、ひとり

女の子の名前を呼ぶ自分にゾッとした。

ぱたりと本を閉じると見覚えのある表紙。

タイトルは

『L'histoire des étoiles et du soleil』

誰もが知っている『星と太陽のおはなし』

という絵本が原作の物語。

初めてここで棗ちゃんと話した時に

読んでいた本だった。

「(もう読み終えたんだ)」

貸し出し表を本へ挟むと

積み上げられた本の一番上へ乗せた。

これ、誰が片付けるんだろう。

「王子！」

静かな室内に響いた聞き慣れた声。

「佳奈」

「早く帰らないと、パパが話しあるって」

「うん、聞いてる」

小さな顔は予想通り

困惑の色を滲ませていた。

「泉さん、困らせちゃだめだよ」

「うん」

「あんな綺麗な人、なかなかいないよ」

「うん」

「うん、って、」

「…」

「ねえ、はる」

「違うでしょ」

途端に静まり返る。

少し強く発してしまってから気付く。

部活動の音と声さえも聞こえない。

なんてタイミング。

「…”王子”、でしょ、いつもの呼び方は」

弱々しい声でごめん、と呟く佳奈。

「(違う、佳奈が悪いんじゃない)」

三年前、母が再婚した。

相手は桜田晃平。

大手企業の現社長で、

中学生だった俺にとっては

クラスメイトである佳奈の父。

急に家族が二人増えた。

母は息子である俺に

何も相談もしなかったけれど、

母が幸せなら構わなかった。

家族が増えた以外に、

何も変わらないと思っていた。