変人野郎を黙らせるには。 (ページ15)

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「わっ」

地鳴りのように響く音に

心臓が止まったかと思うほど

びっくりしてしまう。

逃げ場の無い恐怖に

小さくしゃがみ込むと

震える膝をきゅ、と抱きかかえた。

バチン

と音がして薄暗くなる室内。

停電。

窓の外の雷の光が

余計に大きく見える。

真っ暗な部屋に一人、

小さい頃、共働きの両親を

大雨の日に待っていた記憶が蘇る。

『棗、いい子にしていてね』

そう自分の名前を呼ぶのは母だった。

いつも家にはいなかったけど

優しい母。

こんな大雨なのに、

また仕事へ行ってしまうのかと、

行かないで、と言いかけて

やめた記憶が薄っすら残っている。

自分の小さな体が

大きく震えていた事を

十数年経った今でも、

鮮明に覚えている。

「(ああ、やだなあ)」

指先がひんやりと冷たくなっていく。

心臓がばくばくと音を立てる。

「棗ちゃん？」

ふと、声がして、

その方へと視線を向けると

その人物は

目の前へ来てしゃがみこむ。

「何回も呼んだのに、」

そういえば、この人いたんだった。

雷に気を取られて目の前の人物の

存在を忘れかけていた。

鳴り続ける雷の音から逃れようと

顔を膝元に埋める。

「…またからかい甲斐があるな

なんて思ってるの？」

そう問いを呟き反応を待つが

無反応。

無視されてるとは思うも

今はそれに構ってる

場合じゃない。

「………困ってた」

雷の音の合間に

聞こえた声は想像とは

ちょっと違っていて。

そりゃそうだ。

突然雷ごときに震えるほど怖がる

女子高生を目の前にすれば

誰だって困る。

ちら、と顔を上げると

先ほどまでのへらへらとした

表情とは変わって、

真剣な表情で私を見下ろしていた。

「棗ちゃんの意外な一面が

可愛くて困ってた」

脳内の花畑の花は

枯れる事を知らないようだ。

「…それをからかってるって言うの」

「そうとも言えちゃうね」

未だ電気が復旧しない室内で

ぼんやりと見える彼は

私を見つめ、

柔らかく微笑を漏らす。

頬にかかった私の髪の毛を

するりと掬うと

ほんの僅かに頬に触れた

指が温かかった。

どくりと心臓が鳴った気がした。

「雨が止んだら帰ろうか」

「…止むかな」

止むよ、と言う彼の声が優しくて

そっか、と顔を逸らした

身体の震えはおさまっていて

指先もじんわりと体温を

戻してきた気がする。