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「そんな嫌そうな顔しないでよ
傷ついちゃうなあ」
触らない、の意思表示のつもりか
両手を広げ上に挙げて
此方を見つめる。
「きもい」
後ろへ下がり目の前の彼と
十分に距離を取ると
全力で顔を顰め睨めつける。
が、彼にはそんな地味な
攻撃が効かないようで。
「キスされちゃうのかと思ったよ」
なんて呑気に笑っているのだ。
初めて会った時から思っていたが
この花畑のような頭の中は
いい加減どうにかしてほしい。
「本当きもい」
「もう、そんなきもいきもい言われたの
初めてだよ僕」
「私もこんなきもい人に会ったの
初めてですけど」
「それは光栄な事だ」
掴み所の無い彼との会話に
嫌気が差す。
早く帰ろうと立ち上がり背を向け
机の上の鞄を手ると
ちくちくとした視線。
一体何なんだ。
王子、と呼ばれる人物は
恐らくこの男なのは薄々
気付いていたけれど。
貴方を探してるようですよ、
なんてわざわざ優しい事は
言ってやらない。
チラ、と目を向けると
未だ壁に背をつけて座ったまま。
そんな彼に、
「あのさ、」
「なあに、棗ちゃん」
「さっきのはセクハラ」
「」
精一杯の仕返しのつもりのそれ。
彼が驚いたように目を丸くした、
と思いきや
途端にクスクスと笑い声を漏らす。
「え〜そっちか〜！ははは」
「…は、そっち、？」
「てっきり“王子”のこと
聞かれるのかと思ってた」
「ああ、」
気にならない、と言えば
嘘になるけれど。
見た目がそう呼ばせているのか？
なんて考えて
納得してしていたところもある。
適当に受け答えをしていれば
「想像してる通り
僕が王子様だからだよ」
自分で言う台詞として
どうなのだろうか、とも思うが
この男はそれを難なく言えてしまう
そんな外見であるが故に腹が立つ。
続けて、嘘だけどね、と
呑気な笑い声が聞こえたけど。
呆れて溜め息が出る。
「さいなら王子」
鞄と、僅かにシワが付いてしまった
プリントを手に教室を出た。
「さようなら棗ちゃん
気をつけてね」
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作者名：Ritz | 作成日時：2013年11月6日 22時
