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※軽くお下品
少し時間を遡った自習室。
野上が唸るように畳に座っていた。
少し腰が重いのは気付かないふりして、昨日のことを思い出す。
――ついに一線を越えた。
野上にはその事実が朝になりようやく心の底から自覚し、思い出すだけで恥ずかしい経験となる。
正直部屋に戻った記憶も曖昧。
最後まで至れり尽くせりでエスコートされたことに不甲斐なさもありつつ、優しい恋人にまたも惚ける。
点呼のときに宣杜の顔を見れなかったのは、昨日の艶やかな表情を思い出すから。
名前を呼ばれそうになって思わず口を塞いだのは周りに揶揄われそうだったから。
本音は、宣杜から呼ばれる名前に特別感情を抱いていて、誰にもバレたくないという独占欲。
自分の名前だけを呼べばいい、そう野上は思ってあえて隠したのだ。
花井「のがみん良いことあったでしょ」
野上「別に」
花井「バレバレだよ」
自習室でひとり考え込んでいた野上のもとへ花井がやってくる。
恋をすると女の子は綺麗になる、なんてよく言うが性別関係なく変わるものなのだと花井は感嘆する。別に野上の外見に変化があるわけではないが、心の変化が表情を彩っているというか。
朝の点呼での宣杜に対する余所余所しい野上の態度、明らかに何かがあったのだろうと推察できた。
花井は色々と察しが良かったので"そういうこと"なのではと思っている。
桃井「ねえ、ヤったの？」
突然聞こえた小さな声に野上は大声を出し、花井はそんな様子を見て笑う。
図星だと桃井はジト目になりながら花井とは逆、野上の隣にしゃがみ込んだ。
桃井「本当なんだ」
花井「そうみたい」
桃井「ふぅん。意外とはやかったね」
花井「僕ももうちょっと遅いと思った」
桃井「野上が宣杜の地雷踏んだんじゃないの」
花井「あー…のりりんって爆発すると変に行動力あるからねえ」
桃井「そうそう」
野上「お前ら憶測で会話を進めるの止めろ」
あ、この男宣杜の話になったから止めてきたな。
花井と桃井は声には出さないが、各々そう思った。
花井たちが恋愛話を勝手にしてくれるおかげで助かっている部分はあるが、こういう時に居心地が悪いので困ることもある。
居心地が悪いのは自分が揶揄われるのが嫌だから。二人がある程度のプライバシーを超えないように気遣ってくれているのには気付いていた。
自分の余裕のなさが浮き彫りになるたびに野上は溜息を吐く。
恋する乙女だね、という花井の言葉に野上はまた溜息を吐いた。
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