【メンズ校】Amour à l’infini ③【男主】 (ページ34)

今日:2 hit、昨日:12 hit、合計:49,895 hit

※野上side* ページ34

※後半注意

　

A、そう名前で呼べば手を繋いでいた恋人は思い切り木にぶつかった。
繋がれていた手は自然と離れることになり、ぶつかったまましばらく制止したあとずるずるとしゃがみ込んでいく。

放心状態とはまさにこのこと。
笑ってしまいそうになりつつも反応がないから不安になる。

「そんなに嫌だったか」

初めての感覚でふわふわしている宣杜…Aは、何度か心の内で反復しているようで。
どうすればいいかわからない、といった顔で胸のあたりを掴んだ。

ああ、やはり。
宣杜Aは愛を求めている子供に過ぎなかった。

「…お前やっぱり、根本的なものが足りないな」

自分から生み出したものは怖くない、他者から貰うのが怖くて避けていた。
ましてや素直に愛情を受け取れるほどの環境にいなかったこの男は、余計自分から遠ざけてしまったのだろう。

同性愛者であることを建前に、愛から逃げる臆病者。
アガペーを唱えているようで本当は隣人愛なんかじゃないのだ。

本音で求めていたのは情欲的な愛。
いや、多分どの形でもよかったんだ。宣杜Aは信頼のおける誰かから愛されたかった。

　

「少しずつ分かればいい」

　

"Amour à l’infini"

無限の愛を俺に、そして。
――俺も同等の愛をAに。

少しずつ、普遍的なものを知ればいい。

当たり前に貰える愛を俺が与えられるのは優越感。
おそらくこの男は自分から跳ね除けて避けていただけで色んな人間から愛を貰っていただろうが。

名前を呼んで好きと言えば真っ赤になる恋人。
目を見開いて口をパクパクする姿は、きっとAが俺で見ていた光景なのだろう。

何度も名前を呼んで欲しがる姿も、こうやって照れながら幸せに浸る姿も、愛らしい。
男に可愛いというのはよくわからなかったが、こういうことか。

Aから目を合わせないのは珍しくて、手を繋ぎながら顔を覗き込む。
しおらしいところもあるのだと、俺しか知らない表情と感情を得てまた優越感。

　

・

・

・

　

夏、蒸し暑い時期にベッドでふたり、密着。
お互い汗を掻くほうではないのに触れ合う肌は少し汗ばんでいた。

静かな部屋では水音と吐息がやけに大きく聞こえてきて余計背徳感が増す。
意識を保つのが精一杯でされるがままなのに、ひどくやさしく愛してくる恋人は幸せそうに触れてくる。

『……英敏』

好きだよ、その声と共に意識が飛んだ。
絶頂して気を失ったのだと気付いたのは、目が覚めたときだった。