※牧side ページ25
『馬鹿！浮気者！！やっぱり女のほうが好きなんだ！』
ドン！と大きな音が鳴って部屋の扉が開く。
間違いなくこれは俺の部屋だけど、出てきたのは隣の部屋の主。
「宣杜？」
俺の声なんて聞こえてないどころか見えてない宣杜は怒った顔でどこかへ消えていく。
あんなに剥き出しの感情は久しぶりに見た。
やっぱり野上に対しては感情豊かなんだな、あいつ。
部屋に入れば部屋の真ん中で項垂れている同室相手。
こんな無様な姿はなかなか見ない。携帯があれば写真を撮っていたくらいだ。
「…今度は何したの」
無言で野上がポケットから出したのは女物の綺麗なバレッタ。
たしかこれって野上が島の外に出たときに買ってたやつだよね。
合コンで使わないなら福原先生にでも渡すのかと思ったけど、まだ渡してなかったのか。
……いや、渡せるわけないよな。
これを買ったとき、野上もまだ恋の自覚をしてなかったわけだし。
それにしてもなんで捨てないんだろう。
まだ福原先生に未練でもあるのかな。まさかね。
「なんでまだ持ってるの？」
「忘れてたんだ」
「ええ…」
「島に戻ってからあいつのことでいっぱいいっぱいだったからポケットに入れたままなのすら気付かなかった」
「ある意味それ、病気…」
好きな相手が嫌いなものを持ち歩いてた野上がちょっと怖いよ。
恋は盲目ってこういうこと言うのかな。
壊しもせずに手にあるそれは、嫌味なくらい綺麗な状態だ。
「捨てる前に宣杜に謝ったほうがいいよ」
「わかってる」
「じゃあなんですぐ追いかけなかったの」
「自己嫌悪に決まってるだろ」
「野上でも反省することあるんだ」
起き上がって体育座りをして自分の膝に額を打ち付け続ける野上。
付き合ってからも全然上手くいっている気がしないよこのふたり。
同室である俺は必然的に毎日野上の惚気や悩みを聞く羽目になるし、上手いことふたりが幸せになってくれればいいんだけど。
「弱ってるときに優しくされるとその相手のことちょっと気になるよね」
「何の話だ？」
「宣杜は傷付いたわけでしょ？今、誰かに優しくされたら好きになっちゃうかもよ」
「そんなこと」
「ないとは言い切れない」
パキ、という音が静かな部屋に響く。
バレッタを握り潰す勢いで力が入るんだから、相当焦ったんだろう。
慌てて立ち上がってバタバタと部屋を出ていく野上。
帰ってくるときはうざいくらい幸せムードを出してる野上が帰ってくることを祈って、その背中を見送った。
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