chapter*1-7...大嫌いだから、生きていて。 ページ7
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その日の夜。慌ただしい高専内に、気が付けば走っていた。寮の部屋、教室と走って、そして硝子が普段仕事をこなしている場所に、人が集まっていた。
心臓がバクバクと大きな音を立てて、今にも破裂しそうだった。嫌な想像だけが膨らむ。どうか。はやく。違うと言え。だれか。はやくわらって、何焦ってんの? って、いつもののんきなえがおで、
「……悟」
いつの間にか隣には傑がいた。静かな声で名前を呼ばれて、視線だけを向ける。
傑は、今にも泣きそうな顔をしていた。普段ならばからかって、茶化しているのに、傑の表情が嫌な想像を現実だと言っているような気がして。
「二人とも来てたんだね」
前からやってきたのは硝子だった。
こっち、と言われるままに後ろをついて行く。体が上手く動かせない。呼吸だって、どうやってやってたのか思い出せないぐらいには不規則だ。
緊張、しているのだと、隣の傑を見て思った。そしてそれは俺も同じだった。
だって、たぶん、おそらく。今から案内されるのは、俺たちにとって見たくもないもので。
それがわかっているから、足が止まった。
「悟」
わかってんだよ。今このまま立ち止まれば、もう二度はないと。
でもさ、お前だってそうだろ。見たくないんだろ。立ち止まった俺の隣から動かないのが何よりの証拠だった。
「……別に構わないけど、後悔するよ」
先を歩いていた硝子が振り返る。
後悔、なんて。そんな意味の無いもの、言われなくても既にしてんだよ。
一歩、二歩と。ゆっくり近づいて。やっと硝子が見せようとしたものが視界に入った。
「帰ってこれたのは、これだけだってさ」
無機質な銀でできた机の上に寝かされていたのは、たったの腕一本だけだった。
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希乃夏(プロフ) - pixivでも見させて頂いていたものです!!占いツクールでも公開してくださりありがとうございます!!更新頑張って下さい!! (2021年3月22日 12時) (レス) id: 1e5270c5a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:仁篠。 | 作成日時:2021年3月22日 11時