No.42 ページ42
・
上鳴の眼前に、鉛色のナイフが踊る。
目を閉じる間もないのに、やけに長く感じた。
その時、上鳴の目の前に、輝くしろがね色が飛び込んできた。
ガキィッ！と金属がぶつかり合う嫌な音が響き、タカが飛びずさった。気付けば、上鳴を守るようにして、小さな背中が凶悪ヴィランの前に立ちはだかっていた。
｢･･････おい、邪魔してんなよ、ガキが｣
ゾッとする程低い声でタカが唸った。
黒いパーカーのフードを被った背中は細く、肩幅も頼りない。なのに、タカの初見殺しな速い攻撃を受けたその人は、こちらを振り返りもせずに、
｢逃げろヒーロー｣
｢え？｣
｢早く逃げろ。時間を稼ぐ｣
小さな手が握るナイフがヒラヒラと揺れる。
明らかに少女の声だ。腕に自信があるのだろうが、果たしてヒーロー候補生たる自分が彼女を置いて応援を呼ぶ事など許されるのだろうか。
上鳴の逡巡が空気で分かったのか、少女は声色を変えず淡々と言い募った。
｢あんたには勝てない。自分自身で分かってんだろ。だから逃げろ｣
『あんたには勝てない』
その言葉がナイフのように尖りにとがって、深く上鳴の胸を突き立てた。
分かっている。相手は手練。そこらのヒーローでも対処出来ないのは火を見るより明らかだ。
それでも自分は、こんなに小さな子供を置いて、応援の要請をするしかないのか。
唇から血が出る程噛み締めた上鳴に、少女はふと、優しい声で言った。
｢私はヴィランだ。だから問題ない。早く行って｣
ヴィラン。
殺されそうになっていた自分を守ろうと飛び込んできたこの少女が、ヴィラン？
意味が分からない。意味が分からないけど、じわりじわりと広がり続けている血溜まりが、テンライの命を刻一刻と狭め続けている。早く応援要請に行かなければ。
苦渋の決断、などでは言い切れないやるせなさだった。
｢ごめん、今は任せた。すぐ応援呼んでくるからそれまで死ぬなよ！｣
ピチャッ、と足元で血が跳ねる。
上鳴は応援要請をするべく、弾丸のように駆け出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 241人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リサ(プロフ) - とても面白いです。続き楽しみにしてます！ (2021年12月7日 20時) (
レス) @page14 id: 942b3344d9 (このIDを非表示/違反報告)
猫(プロフ) - 面白いです！続き待ってます！！ (2021年12月7日 11時) (レス) id: 159bb94574 (このIDを非表示/違反報告)
クレア - 文が多いのにスラスラ読めて楽しい小説ですね、ここ(占ツク)に少ない雰囲気の作品なので、ちょっとラッキーな気分です(笑)！こういうの、私は好みですよ。 (2021年12月7日 9時) (レス) @page4 id: 730c5fdade (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エリンギ(サブ垢) | 作成日時：2021年12月6日 18時
