No.5 ページ5
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ここは寂れた場末のバー。
路地裏から更に階段を下りた所にあるそこは、無口のマスターが経営していて、昼は隠れた名洋食屋、夜は客層の見目が悪い不健全なバーの顔を持つ。
知る人ぞ知る、不思議なバー。
｢久しぶりだね、マスター｣
店の奥でクスリでもやってイカれたのか、正常な言葉を発していない男どもの空気には似つかわしくない、澄んだ少女の声がバーに響いた。
無口なマスターは目元だけ和らげてその少女を歓迎した。
｢ジンジャエールちょーだい｣
そう言ってカウンターの隅の席を占領したのは、黒いパーカーに裾を絞ったカーゴパンツを履いた子供。フードを被っていて顔はよく見えなかったが、フードの下にチラリと覗く髪は、美しい白銀だった。
マスターがスッと出してきたそれを一口口にして、少女は隣に座っている男が呆れた顔をしているのに口を尖らせた。
｢なに。何か文句でもあるの｣
｢最近、ちょっと目立ちすぎてるんじゃねえのかい、お嬢ちゃん｣
ラウンド型の眼鏡が良く似合う男は、そう言って吸っていた煙草を灰皿に擦り付けた。
｢いいの？それ、結構残ってたけど｣
｢ガキの前で煙草吸うなんざ、俺の流儀に反する｣
よく分からないが、ヴィランではあってもこの男の正義なり指針なりが、一応の分別を齎しているらしい。
｢噂通りのカッコして外出歩くのは、俺ァどうかと思うんだがねえ｣
最近、巷で噂になっている“死神”の事を言っているのだと、少女はすぐに気がついた。
｢大丈夫だって。ほら、この店で私の正体に気付く人間なんて、君しかいないだろ？｣
少女の細い、けれど油やら黒鉄やらで黒ずんだ指の先が、店の奥のテーブルを占拠する男共に向けられた。
確かに、あれでは普通の会話など理解できまい。
｢あのなあ。俺だって一応、人間サマなわけ｣
｢うん｣
｢もしどっかの組織に捕まって拷問されでもしたら、お前の居場所を吐いてもおかしくないだろ｣
まさか、と少女は笑った。
｢義爛が大事な取引先を売るわけがないじゃん。こんなガキを拾ってくれたのはどこの大物ブローカーだと思ってんの｣
｢さあなあ｣
少女はとぼける男の欠けた前歯を見て、一時の平穏に微睡む。
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リサ(プロフ) - とても面白いです。続き楽しみにしてます！ (2021年12月7日 20時) (
レス) @page14 id: 942b3344d9 (このIDを非表示/違反報告)
猫(プロフ) - 面白いです！続き待ってます！！ (2021年12月7日 11時) (レス) id: 159bb94574 (このIDを非表示/違反報告)
クレア - 文が多いのにスラスラ読めて楽しい小説ですね、ここ(占ツク)に少ない雰囲気の作品なので、ちょっとラッキーな気分です(笑)！こういうの、私は好みですよ。 (2021年12月7日 9時) (レス) @page4 id: 730c5fdade (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：エリンギ(サブ垢) | 作成日時：2021年12月6日 18時
