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私が家に帰った時、あの方は座敷で刀をジ、と眺めていらっしゃいました。家に入ってきた私に気がつくと刀をキン、と鞘に収めて、おかえりと言ってくださいます。私はただいま戻りましたと返事をして、いつもの刀の手入れの時のようにあの方の斜向かいに座りました。すると、いつもそこに座るよな、とあの方が笑います。俺が刀を触るとき、お前はいつも斜向かいに座る、と。当然、いつものことでしたから気付かれていてもなんらおかしくはありませんでしたが、私は一体何を言われるのだろうとびくびくしました。あの方はそんな私の様子にまた笑って、最後だから隣に来てほしいと言いました。私はおずおず、あの方の隣に座ります。一挙一動を見られているのではないかと思うほど、あの方は私を見つめておりました。武骨な手がそっと伸びてきて、私の髪に触れました。


 あの方は私の髪を手で梳きながら、静かな声で、この村に住んでしまおうかと考えてしまったことがある、とおっしゃいました。村での暮らしがあまりに穏やかで幸せなものだから離れがたくなってしまったと。私は、それならここに住んでしまったら構わないでしょう、と言いました。心の底からの本心でした。神の目を捨ててしまってでもここにいてくださればいいのに、と、そのときの私は本当にそう考えました。ですが当然、あの方はそれはできないと首を横に振ります。確固たる決意でした。きっぱりと言われてしまえば途端に悲しくなってきて、ぼろぼろ溢れてくる涙を止めることもできないままに、どうしても行ってしまうのですか、もうお会いすることもできないの、と私は駄々をこねながら縋りつきました。それにも構わず、きっと自分は死地に赴くだろう、とあの方は言います。自分は穏やかな暮らしよりも願いを叶えるための険しい道を行く馬鹿なのだと。そういう生き方しかできないのだと、自分自身に呆れるようにそう言ってあの方は笑うのです。まったく笑い事ではありません。私はさらにぼろぼろと泣きました。あの方が困ったように眉根を寄せて、泣くなよ。と言いました。泣くなよ、別嬪さんなんだから、と。

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作者名:鳴草 | 作成日時:2022年5月6日 1時

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