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それから雨が上がるまで。時間はどのくらい経っていたのでしょうか。私にはその雨宿りが半刻しか経っていないようにも思えましたし、もう永遠、いつまでも続くような感じもいたしました。雨が降っている間、私はあの方とお話をすることになりました。あの方の少しかさついたくちびるが私のことを「別嬪さん」と表すたび、この身が溶けてしまうかと思うほどに熱くなりました。雨に濡れた私に、若い娘が体を冷やすべきではないと羽織をお貸しになって、それから懐の仔猫もお寄越しになりました。そのような親切が私はうれしくてうれしくて、あの方の退屈しのぎにとお話を始める頃合いには、すっかりあの方のことを好いてしまっていたのでございます。世間知らずの一介の村娘には、鮮烈すぎるお方でした。まるでそう、雷のような。いろいろなことをお話ししました。私は基本聞き手に回って、あの方が転々放浪してきたというこの国のことを教えていただきました。面白おかしく語られる放浪の旅の様子は、狭い村しか知らない私を虜にいたしました。
しかし雨というのはいずれ止むものでございました。あの方は何度目かに私を大笑いさせたのち、雨が止んだことを教えてくださいます。たしかに気づけば大粒の雫で出来上がった冷たい垂れ幕は見る影もなく、鼠色だった空にはうつくしい青色が差し入れられておりました。それはただ雨上がりを待つあの方の退屈の終わりを意味するものでもありました。それに気がついてしまえば、私はまた心細さにうつむきました。あの方を見送ってまたひとりぽっち山に置き去りになるのかと思うと、あんまりにも恐ろしかったのでございます。そうすると自然、私の目頭はかあっと熱くなって、気がついた時にはみっともなくぽろぽろと涙を溢しておりました。情けない気持ちでございました。
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作者名：鳴草 | 作成日時：2022年5月6日 1時
