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屋台の陰の薄暗がりに棒立ちになった私は、しばらくぼんやりと人の波を見送ります。私は押しのけ押しのけされて行き着いたその場所がいったいどの辺りに当たるのか、皆目見当がついておりませんでした。あの方は異国の方だと言われても納得ができそうなくらいに背が高くていらっしゃるのに、きょろきょろと見回してみてもあの特徴的な白練の色合いの癖毛はどこにも見えません。私は思わず重苦しい息を吐き、様々なことを考えます。今頃あの方は自分を探してくださっているのかしら、とか、迷惑をかけてしまった、とか、もしかしたらあの方と花火は見れないかもしれない、とか。
そういう風にぽつぽつ、考え事をしておりましたら、私の肩を後ろから叩く人がおりました。きっとあの方だと考えた私はすぐに振り返りますが、予想はすっかり外れ、そこに立っていたのは見覚えのあるひとりの男の人でございました。開口一番、その人は自分のことを覚えているかと私に問いかけます。彼は一年かそこら前に村を出て奉行所で働くために城下に行った、私より少し歳上で、かつて兄のように接してくれていた元村人の男でした。私はもちろん覚えていると、久しぶりだと返事をします。私の返答を聞いたその人はほっとしたように変な男と思われなさそうで安心した、と笑いました。
ひとりで来たのかと心配げに問われましたから掻い摘んで事情を説明すると、彼は自分も待ち人がいるから一緒にいようと言ってくれました。私もそういうことならと頷いて、一時の世間話に興じることにいたします。あの方についてを質問されましたから、もっぱらその話をしておりました。雨の日に出会ったこと、聞かせてもらった旅の話のこと、村で起こった出来事について、今日祭りに来ることになった経緯について。相槌を打って話を聞いてくれていた彼は話を一通り聞いたあと、私が綺麗になったと、以前よりも楽しそうに見えるとしみじみした感じで言いました。良い人に出会えたようで何よりだ、とも。私は少し恥ずかしくなって、けれどその通りですからはにかみながら頷きました。
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作者名：鳴草 | 作成日時：2022年5月6日 1時
