episode 2 ページ3
「……………は?」
太宰治はやっぱり心当たりがないようで、きょとんとした顔で私を見つめている。
その顔を見ていたら、何故か笑いがこみ上げてきた。
妹が、生きているのか死んでいるのか、それすらも、私は知らない。
知っているのは、妹を攫った憎き相手は、この太宰治だと云う事。それだけ。
でも______だからこそ、
「真逆、覚えてないとか⁉やっぱりね!根は変わらないんじゃん!………ねえ、妹を返して。貴方が闇の世界へ連れ込んだ、私の妹を返してよ。返せッ‼」
私よりもずっと背の高い太宰治を、精一杯睨みつける。
憎い。………私、この人が憎い。
殺したいくらい。
「自分だけ倖せにならないで。不幸へと連れ込んだ人を見捨てて、自分だけ倖せになるなら、それで満足なら、貴方に善人になる資格はないから」
ねえ、倖せなんでしょ?
闇の世界へ連れ込んだ妹の事を忘れちゃうくらい、倖せなんでしょ?
「どうして………人の事を、人生を楽しむ為のアイテム程度にしか思えないの?飽きたら捨ててしまうの?」
ガチャ、と扉が開く音がして、白髪の少年が駆け寄ってきた。
「太宰さん!大丈夫ですか?」
その少年を見つめて、きっと私は満面の笑みを浮かべていたと思う。
妹も。
此奴にさえ攫われなければ、妹だって、こう云う世界で生きていけたはずなのに。
私の隣で、笑っていたはずなのに。
「………判りました。さようなら」
停まっていた昇降機に乗り込んで、階下へと降りる。
「覚えて、ないんじゃん………」
その場にしゃがみ込んで、ボソッと呟く。
何でかは判らないけれど、涙が溢れてきた。
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作者名:茉里 | 作成日時:2019年7月7日 13時