裏方らいふ

舞台の人 ページ8

.




『あれっチーフ来てません？』


河「見てないですね」





若い進行さんに河野が答える。


姉さんは芸人に混じって休憩している事の方が多く
スタッフさんが訪ねて来るのはよく見る光景だ




まあ、多分あそこに居てはるんやろ


　




.







「おー、おはよのむちゃん」




喫煙所へ行くと思った通り
いつものブラック片手に煙草を咥えていた







野「安藤さん探してはりましたよ」


「えー、何かあったかな？」





と言いつつ急ぐ素振りは全く無い。

この人の事やから段取り済みなんやろうけど







野「そや、この間ありがとうごさいました」


「何やっけ？」


野「照明機材、助かりましたホンマに」






主宰する劇団の小屋入り後、
どうしても灯が決まらず姉さんに電話した



" 台本とプラン図データで送って。
私があの人に話してみるわ "






その後は照明さんとの打合せもスムーズにいき
自分の希望も伝えることができて


無事リハに漕ぎ着けたわけで。







「私は電話しただけやで？
　とりあえずあそこのシーン綺麗にやったってって」



「のむちゃんの図面が分かりやすかったしね」








いつも思うけどこの人はホンマに謙虚。


今もなんてことないような顔をして
煙草を吸っているから


多分これが本心で








安「あっ、発見！チーフっ！」


「やば、見つかってもた」






悪戯な笑みを浮かべて最後の一吸いをした後
姉さんは舞台へ戻っていった






.









開場前＿＿ コンビで袖へ行くと
音響さんと盛り上がってる姉さん






「あっ河野河野、ちょっとこっち！」


河「何すか、え？」


「いつも通り舞台出てみて。お願いしまーす」







〜♪




河「どーもー、本日MCは我々令和喜多みな実です
　 お願いしまーす、て無理あるやろ！」




「笑、あかん？」


河「何この曲。民謡？」







楽しそうにしている姉さんに釣られるように
スタッフさんもみんな笑っていて

本番前とは思えへん和やかな空気。







「せっかく高田が持ってきてくれたから
　雰囲気変えてみよかなって」


河「変わりすぎですて。お客さんびっくりするから」



「高田ごめん、
　河野先生がこれじゃ板の上立たれへんって」


高「残念ですけど仕方ないです。笑」



河「これ僕が悪いん？絶対ふざけてるやん」








結局、本番はいつものSEに戻っていた。


(相手は姉さんやし、かましてくるかもと思ったけど)



.

(2)→←いつもの

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す