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あぁ、この子の嫌な記憶を
少しでも拭ってあげなくちゃ、
なんなら、全部俺が奪って引き上げられたらいいのに。
そう思うけど、そんなこと無理なのも分かってて。
代わりに俺ができること、
必死に考えた。
そして、思いついたこと、
俺はそっとその痕に触れた。
「A、俺、怖い?」
「え、イェダム?怖くないよ?」
「良かった、なら、これ、俺が上書きしていい?」
「上書き?」
「うん、Aの記憶から、少しでもあいつが消えるように」
「……」
そこまで言うと黙り込んだA。
きっと意味は伝わっただろう。
別に、恋愛感情がある訳ではない、
多分。
そんなのより、もっと越えた大切な何か。
俺にとってAはなくてはならない人だから。
そんなAから、ただ、消したくて。
あいつを、
少し黙り込んだAに、負担に感じられたなら嫌だなと思って、咄嗟に口を開いた。
「嫌ならいいんだよ、さっきのがあったばっかだし、無理には、」
「いや、いいよ、」
「え?」
「上書き、して?」
覚悟を決めたような目で、
俺を見つめてそう言ったA。
その瞬間、少しどきっとして。
あれ、恋愛感情、じゃないよな、
そう、少し不安になった。
でも、そんなこと、今はどうでもいい。
それより、消してあげないと、
そう思って、小さく「分かった、」と
呟いてシャツの襟をそっと引っ張った。
「痛かったら、言ってね。すぐ、辞めるから」
「うん……」
少し体勢屈めて、肩を片手で支えれば、
そっとその痕に唇を寄せた。
触れた瞬間、
びくっと少しだけ体が震えて、
すぐに離してAを見れば、
「大丈夫、続けて」と言う。
不安、そうな顔してるのに、
でも、多分消して欲しいのはほんと。
それを分かっていたから、
俺はまたそこに唇を寄せた。
肩を少し寄せて、
ちゅっと吸えば、
簡単につくそれ。
その瞬間、やっぱりAはびくっと身体を震わせた。
少し離してそれを見れば、
さっきより、濃くなった紅。
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作者名:もなか | 作成日時:2022年10月4日 12時