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10分ほど歩いたところにある目的の甘味処に到着した。
俺はいつもの御萩を、彼女は悩みに悩んだあげく俺と同じものを注文して。
「んんー、美味しいーっ」
同じ長椅子の左隣に座る彼女をちらりと見ると、幸せそうに目を細め、口を両手で覆いながらこっちを見て笑った。
…その瞬間、ドクンと心臓が大きく動いた。
「不死川様も、甘いものがお好きなんですね。ちょっと意外です」
「わりィかよ」
「いえ、甘いものを食べられているイメージがなかったので…」
「……」
「少しだけ…親近感を持ってしまいました」
「………あっそォ」
俺のことをなんだと思ってるんだこの女は。甘いものくれぇ食べる。むしろ好きな方だし、こんなもん1日に10個は余裕だ。
その好物を手に取り口に近づけようとしたとき、痛いほどの視線を感じて横を見るとバチッと大きな目に捉えられていることに気付いた。
「………おい」
「………?」
「ンな見てんじゃねぇ」
「あ、ごめんなさい、つい…」
俺から目を逸らして、彼女がずずずっと抹茶を啜っているうちに慌てて御萩を口の中に放り込んだ。
……なにを焦ってんだか、俺は。
「…怪我はもう大丈夫なのかよ」
「はい!もう痛みもなくて、来週からは任務にも復帰します」
「でも……」そう続けた彼女は、目の上で切り揃えられた前髪を手であげて俺の方を向いた。
「ここ、傷残っちゃいました」
こめかみから右目の眉毛の上あたりに延びる数センチにわたる傷。前髪で隠れて見えていなかったが、こうしておでこを出すと、愛らしい彼女の顔とはあまりに不釣り合いな傷が露わになった。
"残っちゃいました"なんて無邪気に感じるその言葉の奥に、哀しさや悔しさが隠れているような気がして、胸が傷む。
彼女が自分の前髪から手を離したあと、俺は自然とそこに手を伸ばして前髪を掻き分け、その傷に指を這わせた。
「これはお前が戦った証だろ」
「…………へ?」
「恥じることはねェよ」
「……ありがとう、ございます」
潤んだ瞳からまた涙が溢れ出してしまうのではないかという不安は、彼女の綺麗な笑顔によって掻き消された。
「不死川様と、同じですしね」
「……あ?」
「傷の位置が似てるから……お揃いみたいでちょっと嬉しいんです、ふふ」
傷のお揃いってなんだよ。
そんなんで喜んでんじゃねぇ。
「阿保か」
彼女の笑顔に釣られて、俺も少し笑った。
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もみじ(プロフ) - 覚悟を決めし者さん» 決めしちゃんありがとう!(;;)私はここではお話投稿しなくなるけど、相変わらず決めしちゃんのファンだし、これからも決めしちゃんのお話を読者として楽しみにしてるね^^才能に溢れた決めしちゃんが大好きでした!ビッグラヴ!!!! (2021年3月27日 19時) (レス) id: a7517d1b2b (このIDを非表示/違反報告)
覚悟を決めし者(プロフ) - 短い間だったけれど、仲良くしてくれてありがとう……!もみじちゃんと出会えてよかったです!!連投ごめん!!!!ビッグラヴ!!!!! (2021年3月26日 22時) (レス) id: 37c69db3c0 (このIDを非表示/違反報告)
覚悟を決めし者(プロフ) - もみじちゃん……!!コメントが遅れて申し訳ない( ; ; )完結おめでとう!!!恋愛に鈍くて初心な不死川さんらしさが溢れた素敵な作品でした……!!もみじちゃんが占ツク卒業しちゃうの死ぬほど寂しいけど、ずっと応援してるからね!! (2021年3月26日 22時) (レス) id: 37c69db3c0 (このIDを非表示/違反報告)
もみじ(プロフ) - 蓮さん» 蓮ちゃんありがとうっ!もう蓮ちゃんに言いたいのは……ただただ大好き!!!!それだけ!!!!これからは蓮ファンクラブ代表として読み手にまわるね^^本当にありがとな!!! (2021年3月25日 16時) (レス) id: a7517d1b2b (このIDを非表示/違反報告)
もみじ(プロフ) - 古猫丸さん» わっ…まさか古猫丸様からコメントをいただけると思っておらず震えておりますっ。私には勿体ないお褒めのお言葉…本当に嬉しいです。ありがとうございます(;;)私、古猫丸様の書く煉獄さんがすっごく大好きなのでこれからも読みにいかせていただきますね^^ (2021年3月25日 16時) (レス) id: a7517d1b2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もみじ | 作成日時:2021年3月1日 19時