1口 ページ1
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「A様!抜け出されては困るとあれほど言ったでしょう!」
「だからこっちも言ってるでしょ!?お見合いは良いって!私は結婚なんかしない!」
早朝から廊下をドタドタとすごい音をたて走り回る。それに必死に着いてこようとする従者が、また面白さを助長させてしまう。
そんな追いかけっこも、父を目の前にしては一瞬で終わりを迎える。父は「…A」と地を這うような低い声でそう呟く。それだけで場の空気が2、3度下がっている気がする。
「…貴様は成人にしてもまだわからぬか。儂がお前の頃だと、その年で婚儀を済ませていないとは一家相伝の恥だ」
「だからっ…!まだそんな古いものに固執していらっしゃるのですか?お父様は」
私は、父の前でなるべく避けていた話題を口にした。
「…もうこの世は、廃刀令が出ているのです。藩などというものにいつまでも固執していては、このA家は滅びの一途を辿るでしょう」
「貴様っ…!それでもAの娘か!赤喜、こやつは折檻だ。この屋敷で1番高い木に吊るしておけ!」
赤喜というのは、少し前から父の傍で仕えてきたいわゆる秘書的なものだ。他の者より頭一つ出て秀でている彼。父は赤喜にとても信頼をおいていて、赤喜も父をとても慕っている。
ちなみに、女中の間では若くてイケメンという話が出ているようだ。
そんな赤喜は申し訳なさそうに顔を歪めると、私を木にくくりつける。くくり終えた時、赤喜が私に耳打ちをした。
「…縄、緩く結んでおきましたので外出の際にご活用頂けたら。そのお召し物は棘が刺さっておりますので、替えを三木宅に用意しておくよう手配致します。では、ご武運を」
「はぁ…赤喜さん、私の傍についてほしい」
「有り難きお言葉。…ですが、私は景政様に仕えている身ですから」
そう言って優しく笑うと、踵を返して屋敷の中へと入っていった。
赤喜さんが言っていた三木宅というのは、私が受けていた授業の先生だ。屋敷を抜け出して顔を見せにいくくらい、私は先生をとても慕っている。
そして先生と赤喜さんは古くからの友人らしく、屋敷を抜け出すときにはよく協力してくれている存在だ。
すぐ抜け出しても見つかってしまうため、父が屋敷から出たタイミングで私も出ることにした。
幸いなことに今日父は
しめしめと思いながら、私は高い視線から外を眺めた。
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ミーこ(プロフ) - さちさん» ありがとうございます☺️❤️🔥なにせ私が土方さん推しなものでして笑 (2022年11月6日 19時) (レス) id: 3ecbe7c0be (このIDを非表示/違反報告)
さち - 続きが気になります!土方さんいいですよね。 (2022年10月31日 17時) (レス) @page6 id: 0e3bc286c0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ミーこ | 作成日時:2022年10月10日 19時