煉獄さんはむつかしい

28話 ページ29

杏寿郎は目を見開き、私の耳元で大きな大きな溜息をついた。



ちょっと……！耳元はだめっ！
ゾクゾクする…！



っいい加減にしろッ！！！




『…き…杏寿郎、
い…いいかげんに…しなさ…あっ、』
　



彼の柔らかくて熱い息が私の耳を優しく撫でる。

やめる気も更々ないらしい。





『…んっ……杏寿郎っ！
お願いだから…！こいつ…っゆ、ゆるさん！』

杏寿郎は私の耳に何度も息を吹きかける。






思ってた声とは裏腹に、高くてか細い声が私の口から漏れ出た。


その声を聞いた杏寿郎は何を思ったのか、急に耳攻撃を止める。






しばらく無表情で私の事をじっと見つめた。





………この人今何考えてんだ？


そして突然私の衿をぐっと掴んで、シュルシュルと緩めていく。







は…？

…………ちょっ…本気！？









胸元の谷間が顕になり、杏寿郎は目を大きく見開き手を止めた。

　
赤い私の顔を、目を細めて満足げに眺めたあと



胸元に視線が行った。
私の胸元を眺める目は完全に男のそれだった。






私を舐め回すように見る杏寿郎の目は、金色の光が瞳に宿っているように見える。

羞恥心に顔がさらに赤く染まる。







　

………っちょっと!!!長い！！

いつまで見てんの！！









杏寿郎が無理やり衿を掴み、更に広げようと力を入れたときに私の直感がこう告げていた。



【これ以上したらなんかふたりとも後悔するような気がする!!!!】









私は杏寿郎の首に両腕を回した。




杏寿郎が驚いて動きを止めた隙に、杏寿郎の耳元で自分の出せる限りの声を張り上げて



　



『杏寿郎‼いい加減起きろッ！！』

と叫んだ。









途端に杏寿郎がハッとした顔になり、周りをきょろきょろと見回す。


私の胸元の谷間が顕になっているのに気づいた杏寿郎は、


3秒真顔のまま固まったかと思うと


急に火がついたように真顔をボッと赤くして、私から飛び退く。







動きはっや…。流石。




急に飛び退いた杏寿郎にびっくりして私は目を閉じてしまった。



そして恐る恐る目を開けると…









私の目の前で
　

完璧に作法に則った、美しい土下座をキメている杏寿郎がいた。








「っ本っ当にすまない！！！嫁入り前の女性に俺はなんてことを！！


…頼む！……殴ってくれ！！」






赤い顔のまま言う杏寿郎。









………はぁ。
　
心の中で溜息をついた私は、








杏寿郎に近づき杏寿郎の頭を思いっきり殴った。

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