イカサマ ページ18
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渋「…それで、そのままヨリ戻したんや」
「そ、」
渋「そう、か、」
経緯を話せば、
口をきゅっと結んでしまったすばる君。
呆れるでもなく責めるでもなく。
渋「…その、黒髪も?」
「え、あぁ…それも、
後夜祭の翌日になってから言われて…
だから学校サボって染め直した、笑」
渋「アイツ、黒髪好きなん」
「知らん…いや、すばる君そういうの喋らんの?」
渋「あー、ヨコとはしばらく顔合わせてないかも」
「そうなんや、家も近いのに」
渋「んー帰り遅いみたいやしあんま会わん」
「そっか、」
すばる君とも会ってなかったんや。
…なのに、わざわざうちの高校の文化祭に…。
渋「ま、聞きたかったのはそれだけや」
「えぇ?何それ、笑」
渋「確認したかっただけ」
「確認、って…」
ピピピピッ
渋「…ん、」
いつの間に計ってたのか、
すばる君がシャツの襟元から体温計を取り出す。
ほれ、って見せられたのは、『37.6℃』の表示。
「…熱あるやん」
渋「ちゃう、俺レベルになると
このくらいのクオリティで仮病やれんねん」
「え、どういうイカサマ?」
渋「内緒」
そう言って
慣れた手つきで消毒用のコットンを取り出し、
肌を当ててた部分を拭き取って元に戻す。
渋「…慣れてる奴は、
簡単にこんなことできんねんで」
「…」
…中学の頃から変わりのない淡々とした口調が、
やけに意味を持っているように思えて。
窓から遠慮なく入ってくる
オレンジ色に染まった光から、目を逸らした。
渋「もう、帰ろ。俺熱あるし」
「仮病やろ」
渋「はよお家帰りたい」
「いっつも早退してるやん」
渋「俺がこんな時間まで学校おるとか奇跡やぞ」
「知らんわ」
立ち上がって、保健室から出て鍵をかける。
これで元通り。
この場で話したことも、感じたことも、
気付きそうになったことも、全部。
カチャリ、という音で、全て封じ込めた気がした。
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作者名:黒葡萄 | 作成日時:2020年2月7日 16時