迷走＊ワールド

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「コーヒー飲む時間ある？」
「あーうん。」


ロビーは幸い人が誰もいなかった。自販機に並ぶものから缶コーヒーを選び、横尾さんがボタンを押した。奢ってくれるのなら、大人しく奢ってもらおうと、軽く頭を下げた。


ガラガラと大きな音を立て落下した缶コーヒーを横尾さんが腰を屈め取り出してくれたのを受け取り、プルタブを外す。



茶色のベンチに腰を掛けると、横尾さんも隣に腰掛けた。



冷えた缶が指先を冷やしていく。



「ミツがもし、時空の歪みからこっちの世界に来たとしたなら、不安だと思う」
「……うん、正直スッゲー不安。」


おどけて笑って見せるが、横尾さんの表情は一向に晴れない。つられても笑わないから、真剣に心配してくれてるのかもしれない。迷惑かけて、申し訳ない。



「ごめんな。横尾さんにまで心配かけて」
「俺はいいんだよ。メンバーだし。でもさ」



横尾さんは、買った缶コーヒーのプルタブを開けない。両手で缶を包むように握りしめていた。
両肘を腿の上に乗せて、前屈みになっている。丸みを帯びた背中は何となく哀愁も帯びていて、摩ってあげたくなる。



横尾さんの言葉の続きを待つ。
じっとその丸みを帯びた背中を見詰めていると、僅かにその両肩が震えた。



「……太輔のことだけど」
「藤ヶ谷？」



横尾さんと藤ヶ谷はメンバーかつ親友という関係を築いていた。それは俺の世界でもそうだから、こっちでも変わらないのだろう。収録をして思ったが、俺と藤ヶ谷が別れてしまってる、という事以外に特段と変わった事は見当たらなかった。
職業柄、肝も据わってるのか、割りとこの世界に順応できてる部分もあった。



「混乱させないであげて欲しいんだ。」
「……混乱？」
「もし、ミツの話が本当なら。ふとした時にこっちの世界のミツとそっちの世界のミツはまた入れ替わるでしょ。」
「……方法はわかんないけど、多分」



きっと、戻れるとは思う。
夢なのかもしれないし、よく分からない。
ていうか、じゃないと困る。



「戻った後の事も考えて、太輔を惑わせないで欲しい。」
「惑わすって…？」
「こっちの世界のミツは、太輔を酷い振り方したの。」
「……浮気したんだっけ」



信じ難すぎるけど。
俺が浮気するなんて。藤ヶ谷じゃなくて？
いや、藤ヶ谷も俺の事しか愛せないんだけどね！



考えれば考える程、逢いたくなるし。
そのギャップに困惑する。

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