囲われたミツと花【前編】

39 K ページ39

楽しかった。どうしようもなく。
モノレールに乗って、高い所を移動する。
さっきまで、そこに居たのが信じられない。
人混みは怖いけど、玉ちゃんが隣に居るから恐怖は和らいでいた。



人とすれ違う時、ぶつかりそうな距離になった時、自然と間に入ってくれていた。




「海だー！」
「うん。さっき居た海岸だよ」



外国人もたくさん居た。
何もかもが10年前と変わってるように感じてしまった。時の流れには、逆らえない。流れていないと思っても、それは自分の世界だけの話で時は流れてる。




「なあ、玉ちゃん」
「ん？」
「有名なスイーツ店ないかな？」
「…行きたいの？」
「うん。太輔に買っていきたい」
「……でもそしたら…」
「もう言おうと思うんだ。外に出たことも、出たいという事も。だから、今日は時間を気にせず遊びたい」




太輔は甘いモノは好きだった。
俺もちょっとなら、好きだし。
太輔にお土産で買って行き全て話したいと思う。もう黙っておくのは、無理な気がした。



辛いことが多いと分かっていても、
キラキラしたこの世界に飛び込みたいという好奇心の芽生えの方が止められなかった。




「…分かったよ。自由が丘行こうか。オススメなケーキ屋があるからさ」



自由が丘、また『自由 』だ。
皆、自由が好きなんだな…



モノレールを降りて、乗り換えて電車を乗り継ぐため駅まで歩いてると、道路脇に自転車が一台倒れていた。
駐輪禁止の所にもたくさんの自転車が停められていて、食べ終わった袋などのゴミも落ちている。綺麗だけじゃない街を目の当たりした。
行き交う人は、周りなど見ずスマホを一生懸命見て歩いてる。



その画面には何が映ってるんだろう。
今それを見なきゃいけないものが映ってるのだろうか。



こんなにも色々なものが街を創り出してるのに、皆にとってはそれは既に、当たり前の景色なんだろうか。



「……！」



玉ちゃんは、何も言わず、当たり前のように転がっていた自転車を片手で掴むと起き上がらせた。
自立して、自転車は停まる。



その持ち上げた時の腕に目を奪われた。
細いはずなのに、軽々と持ち上げたその腕に線が浮かんだのが、人としても男としてもカッコイイなと羨ましくなる。



＊


「うまっ」



自由が丘のメロンショートに苺のムース。
二人で半分に分け合った。
太輔には、桃のシフォンケーキを買った。




「ミツは、よく笑うよね」



そー言えば
玉ちゃんと居るとたくさん笑ってる気がする。

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