第４４話 ページ46
「座ったまま死にたいの？」
棘のような突起が飛び出したトンファーを雲雀さんが一振りすると、返り血と思わしき水滴が辺りに飛び散った。
「クフフフ、面白いことを言いますね。立つ必要が無いから座っているんですよ」
「……君とはもう口をきかない」
「どうぞお好きに。ただ、今喋っとかないと二度と口がきけなくなりますよ」
こちらに歩を進めていた雲雀さんの動きがぴたりと、止まる。
突然立ち止まった彼の様子は明らかにおかしかった。
暗がりの中で、頬や額に浮かぶ水光を捉える。
汗だ。
雲雀さんは、冷や汗をかいているようだった。
「僕はこっちですよ」
「！！」
明後日の方向へ足を進めた雲雀さんに、揶揄うようにそう言う。
そんな彼の手には何かのスイッチが握られていた。
「海外から取り寄せてみたんです。クフフフ、本当に苦手なんですね」
───桜。
カチリ、という軽快な音が響くと同時に、天井一面に桜の花が咲き揃った。
＊＊＊
肉体を殴打する音。
骨の折れる音。
そして時折、微かに聞こえる歯軋りの音。
目の前で行われる凄惨な光景を、私は瞬き一つせずただぼんやりと眺めていた。
「何故桜に弱いことを知っているのか？って顔ですね」
髪を掴まれ、顔を無理やり上げさせられた雲雀さん。
血と暴行の跡が痛々しい。
「さて、何故でしょう」
「…」
「おや、もしかして桜さえなければと思ってますか？
それは勘違いですよ。君レベルの男は何人も見てきたし幾度も葬ってきた」
はらはらと桜散る廃墟の中で、彼は仄かに微笑んだ。
「地獄のような場所でね。……さあ続けましょう」
そう言うと再び、殴って蹴ってを繰り返す。
また、骨の折れる音がした。
(もう、やめて)
何本も骨が折れている。
体の至る所から出血している。
気を失っていないのが奇跡のようだ。
(はやく…はやく手当てしないと、病院に連れて行かないと…)
殴打する音が何度も聞こえてくる。
(じゃないと)
彼の手に握られた三叉槍が、振り上げられた。
───死んでしまうかもしれない。
『やめて！！！』
耳を劈くような悲鳴が廃墟に響き渡る。
指先一つ震えもしなかった体がようやく言うことを聞いてくれた。
しかし今、それを喜んでいる場合ではない。
私は痛む体を今度は自分の意思で無理やり動かした。
蹲った雲雀さんを守るように彼との間に割って入る。
『も、もうやめてくださいっ！！』
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作者名：るるぶ | 作成日時：2020年5月10日 9時
