第４３話 ページ45
全身が麻痺し筋力が低下した体を無理やり動かしたらどうなるのか。
当然、体は悲鳴を上げる。
しかし今の私はそんな痛みも気にせず彼の元へ足を進めた。
先ほどとは比べ物にならない激痛が広がっているのに、私は悲鳴すら上げなかった。
いや、できなかったという方が正しいかもしれない。
先程から体がどうにも言うことを聞いてくれないのだ。
「クフフ…利口ですね」
そう言って満足げに笑うと、私の肩を抱いてそのまま歩き出す。
二人掛けのソファに私を座らせ彼も隣に腰掛けた。
肩に置かれた手を振り払いたくて仕方なかった。
この場から一目散に逃げ出してしまいたかった。
助けて、と泣いて懇願したかった。
なのに体は微塵も動かなかった。
どれだけ頭で命令しても、私の体は石のように固まって、ただじっと彼に寄り添っていた。
きっと今の私はこの“骸”というこの男の命令でしか動かないようになっているのだろう。
そんな非現実的なこと俄かには信じ難いが、この身を持って経験している以上そう考えるしかなかった。
「おや…」
遠くから破壊音や転倒音が聞こえてくる。
それは段々とこちらへ近づいているようだった。
「早速餌として役に立ったようですね。ほら、来ましたよ。
君のサルバトールが」
サルバトール。
それはイタリア語で救世主を意味する。
誰か助けに来てくれたのだろうか。
そんな期待に心が疼いた。
ガシャンと奥のガラスが割れて傷を負った人が転がり込んだ。
それに続いて足音が一つ、鳴り響く。
「やあ」
地を這うような殺気のこもった低い声。
薄闇の中に現れたのは、雲雀さんだった。
「君かい？あの悪趣味な写真を僕に送りつけたのは」
「クフフ…どうでしょうねぇ」
曖昧な返しに苛立ちを感じたのだろう。
彼の表情は来たときよりも一層険しくなった。
「……そこにいるのは現在行方不明になっている並中の生徒だ。返してもらうよ」
「お断りしますよ。僕にはこの娘が必要なのでね」
「それに」と言って彼は私の顎を持ち上げると、自らの視線と合わした。
ぼんやりとした視界に映るオッドアイに言葉通り目を奪われてしまう。
「彼女の方もかなり僕のことを気に入っているのですよ。
この通り彼女の目には僕しか写っていない」
雲雀さんの殺意が更に強まる。
減らず口ばかりの会話に心底うんざりしたように彼は「もういいよ」と吐き捨てた。
「君はここで咬み殺す」
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作者名：るるぶ | 作成日時：2020年5月10日 9時
