第２２話 ページ24
立ち上がって外へ飛び出し、黒煙の中から彼を探す。
「ぐ、ぐぴゃぁぁっ！！」
『！』
床に伏して泣き叫んでいたその子を抱きかかえる。
『大丈夫ですか？痛かったでしょう』
「うっ…痛く、ないもんね…うっ…ぐ、ぐぴゃぁっ！！」
そんな強がりとは裏腹に目から溢れる涙は止まらない。
それは時間が経って手当を終えた後も変わらなくて。
「もー、いい加減泣き止めよランボ」
「うっ…ぐすっ」
まいった、と言わんばかりの表情で頭を掻く沢田さんと泣き止まないランボさん。
それを見て、私は意を決する。
(よし、これなら…！)
私はランボさんの開いた口に持っていた飴を入れる。
すると、はた、と動きが止まった。
飴をころころと口内で転がした彼は途端にパッと表情を変えた。
「これ、ぶどう味だもんね！」
『はい、もしかして好きな味でしたか？』
「ランボさんこれだーいすき！もっとよこせ！」
肩までよじ登って来た彼にそうせがまれる。
私はその小さな体を抱き上げて目尻に溜まった涙を拭う。
『もう泣かない強い子にはもっとあげますよ』
「ん、ランボさん泣いてなんかいないもんね！」
『ふふ、えらいえらい』
そう言って褒めれば誇らしげな笑顔を浮かべる。
私はその小さな手のひらにもう一つ飴を握らせた。
「す、すごいね風間さん。小さい子あやすの得意なんだ」
『と、得意ってほどのものでは……あ、すっすみません！でしゃばってしまって！』
「そんなことないよ！すっげー助かったし！」
『！』
助かった。
そんなこと言われたのは初めてで、何だか落ち着かない気持ちになる。
「風間さんって下に弟か妹がいるの？」
『い、いませんよ。ただ、休日に病院で子供の患者さんの面倒を見ることが多くて…それで』
「あ、そっか！風間さんは親が病院の院長なんだっけ」
「すごいね」なんて言って、沢田さんは笑った。
悪意なんてない、ただ素直な感想を述べただけだろう。
けど、高揚していた気持ちが瞬く間に冷めていく。
『……すごくなんて、ないですよ…何も』
「？ごめん、今なんて？」
『っ…な、何でもないです』
「そ、そう…？」
様子を窺うような視線に「はい」とだけ返して目を逸らした。
それを皮切りに私たちの間に妙な沈黙が訪れる。
(空気、悪くしてしまいました…)
でもこれ以上、家族の話に触れてほしくなかった。
特に、彼みたいな────
「ご飯できたわよ〜！」
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作者名：るるぶ | 作成日時：2020年5月10日 9時
