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泳げない人魚 2/カイル ページ7

ただただ走った。
誰にも見られたくなくて。
息がうまくできず、意識が遠のいていった。
目の前に広がる世界はかすんでいて、まるで溺れてるみたいだった。


――私は一体何に溺れてるんだろう。
でも、溺れているのを助けてくれるのは、

スタンじゃ、ないんだ。


「見つけた!」

唐突に大きな声をかけられた。それも、周りに反響するくらいの。
驚いて肩を震わすと、その肩に温かい手が触れた。


「……カ、カイル?」

授業を抜け出してまで、カイルが追ってくると思わなかったからびっくりした。
しかも肩で息をするほど、ぜえぜえと息を切らしている。
どうして、と聞きたくて首を傾げる仕草をみせた。


「だって、Aが泣いていたから」


……なあにそれ、私が漫画のヒロインみたい。
そう思って笑うと、カイルも少し微笑んで私の隣に座った。

彼は私が落ち着くまで隣にいてくれた。
思わず、スタンじゃなくて良かった、と口から零せば、カイルは途端に顔を曇らせた。

「ねえ、A……授業中の……さっきのこと、話してくれない?」

「……うん」

少し前の私なら否定していただろう。
でもなぜか、いとも簡単に、何も考えてないみたいに、
うん、と言っていた。


――――


カイルはスタンと大親友だから、ウェンディと付き合い始めたことは知っていただろう。
もしかしたら、カイルはこんなわがままな私情は聞きたくなかったかもしれない。
いや、きっと聞かないほうが良かったって後悔している。

彼に申し訳ないことをしたと思う反面、誰かに打ち明ける、という行為のおかげで大分すっきりした。


「A、話してくれてありがとう」

「ううん……こちらこそ。でも、こんなこと、カイルには関係なかったね、ごめん」

精一杯だった。とにかく彼に感謝の気持ちを伝えたくて、少し小声になってしまった。
ずっと俯いていたせいで、そこから見える景色は何時間も見ていたように錯覚した。
ああ、このリボンが可愛い靴だって、彼に、スタンに見てもらいたくて。
でも、彼は気づかなかった。だってそうだ。彼は俯いたりしない。

「関係なくないよ」

カイルは優しい口調でそう言って、私の頭をそっと撫でた。
彼の手はいつだって温かい。

「全部知ってた」

「え、」

驚きのあまり、とっさに出た声だった。
私は何も言えないまま、彼を見上げて瞬きを繰り返す。
彼のやさしく弧を描いた、その唇から目が離せなかった。



「知ってるよ、好きだから」

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設定タグ:サウスパーク , 短編 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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しらす(プロフ) - あっしゅき (2020年4月2日 17時) (レス) id: 721cc084cb (このIDを非表示/違反報告)
もりた - すっごい好きです。続き待ってます。応援してます。 (2017年3月17日 6時) (レス) id: a88801d335 (このIDを非表示/違反報告)
ももえだ(プロフ) - 浅江さん» わーコメありがとうございます!!s19全話見ましたよー!トゥイークとクレイグが衝撃でした…ww (2016年2月3日 23時) (レス) id: 3e22522982 (このIDを非表示/違反報告)
浅江(プロフ) - そういやs19見てますか!?www (2015年11月22日 14時) (レス) id: 06b4bd4c52 (このIDを非表示/違反報告)
トマト(プロフ) - ももえださん» うっひょおおお!!更新嬉しいですー!!これからも頑張ってください! (2015年11月3日 22時) (レス) id: 5a445ac752 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ももえだ | 作成日時:2015年7月30日 13時

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