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「あ、見て、千歳さんだ」
クラスメイトが小さくあたしに耳打ちをする。
その視線に倣って顔を上げると、確かに千歳さんがいた。
千歳 Aさん。間違いなくこの学園トップの名家出身のご令嬢だ。
家の名前だけじゃない。学業、運動神経、音楽、何をとっても彼女に勝る人はこの学園にはいないだろう。
そして、
「いつ見ても美人だよねえ、羨ましい」
「本当にね……」
お嬢様の多いこの学園では珍しいショートカット。でも誰にも媚びずに淡々と何でもやってのけてしまう彼女にはよく似合っていた。
颯爽と廊下を歩く度に少し揺れる黒髪の隙間から、シャープな輪郭があらわになっている。
通った鼻も、白い肌も、ぬばたまの黒髪も、長い手足も、小さい顔も。何もかも、彼女にあつらえられたもののように思える。遠くから見てたって、周りとは気品が違う。言葉通り、あたしたちとは格が違うのだ。
そう言えばバレー部の牛島くんと幼馴染って聞いたことがあるけど、本当だろうか。前に話しているところを見たことがあるけど、二人ともあまり感情をあらわにしないからわからなかった。
……と、そんなことを考えていたら。ぱちり、千歳さんの切れ長の目がこちらを向いた。え、嘘。
そして少し戸惑ったように漆黒の瞳がふらふらとさまよったあと、小さく会釈をして逃げるように去っていった。……う、
「う……わー……」
「びっくりしたね、やっぱり美人に見られると緊張するわ」
ドキドキするわぁ、と右胸を押さえる彼女。心臓そっちじゃないけどな、と思ったけど言わないでおくことにした。
千歳 Aさん。白鳥沢学園の孤高の存在。高嶺の花。
「(でも、)」
あの困ったように細められた目を思い出す。迷子になった子供のような顔だった。
案外、可愛い人なのかもしれないな、と一人そんなことを思った。
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作者名:彗 | 作成日時:2019年4月26日 13時