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｢行ってらっしゃいませ、お嬢様｣
｢いつもありがとう、行ってきます｣
恭しくお辞儀をする運転手さんに見送られ、私は白鳥沢学園の校門をくぐる。
この辺、というかこの片田舎では間違いなくトップクラスの進学校かつお金持ち高校。一般人よりは、それなりの名家やお金持ちの家の令嬢や子息が多い。
周りを見れば私のように車で送迎してもらっている子も珍しくはなかった。
と、
｢若様っ、今日も凛々しいですわ！！｣
｢そうか｣
｢私、今日はお弁当持ってきましたの！！｣
｢そうか｣
｢若様の分もあります！！シェフに頼んだので栄養価の点においては万全ですわ！！｣
｢そうか｣
丁度同タイミングで登校してきていた若利の周りをくるくると回っている女の子を見つけた。
若利、｢そうか｣しか言ってないけど。あれは意思疎通を図れているのだろうか。
だが彼女は気にもしていないらしく、｢お昼に持っていきますね！！｣にこにこしている。確かあの子は、バレー部のマネージャーだった気がする。
少し前に若利の試合を見に行った時、ベンチにいた子だ。あの時はもの静かだったから、空気は読める子なのだろう。
と、ふと若利の鋭い目がこちらを向いた。え、
｢A｣
｢若利、どうしたの｣
｢これ、俺の家に忘れていっただろう｣
｢あ、ごめん｣
若利が渡してきた紙袋に入っていたのは、私の私服用のカーディガンだった。そういえば、この前若利の家に用があって行った時に、忘れていったかもしれない。
ふと、視線を感じで前を見れば、若利の背後に立つさっきの彼女が物凄い顔で私を睨んでいた。
さっきの笑顔はどこへやら、もはや般若だった。お、恐ろしい。
私は1歩後ずさりし、｢あ、ありがとう、じゃあ私はこれで｣そそくさと若利を置いて教室のある校舎へ向かった。
触らぬ般若、じゃなかった。触らぬ神に祟なし、だ。
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作者名：彗 | 作成日時：2019年4月26日 13時
