雛は巣立っても子であると ページ39
「え?」
驚いて振り向いた山姥切に摘んでいたストールの端を離したAは黙ってその手に何かを握らせた。
何だと見てみればその手にはこの店のショップカード。
おそらく先程何か書いていたのはこれだろう、とあたりを付けて何の変哲もない店名の書かれたそれを裏返した。
「えっ」
飛び込んで来た情報に山姥切の脳が一瞬のフリーズ。
『巣立った雛鳥へ
限定裏メニュー
「A屋のデニッシュソフト」』
そして高速で回転を始めた。
デニッシュソフトとあるが、添えられたポップなイラストは間違いなく山姥切が以前リクエストしたそれ。
本当に作ってくれたのか……いや違う、違わないけど違う。そこじゃない。
巣立った雛鳥?
スダッタヒナドリisダレ?俺?俺だな??
_____私の雛鳥に、何してんのよ!!!
かつての夜に見た一閃。
検非違使と己の間に立ち塞がった翼の生えた華奢だけれど大きく感じた背中と共にそんな言葉を思い出す。
優秀だと自負する脳が正解を弾き出そうとするのを、初めての恋と忘れられてたショックで臆病になってしまった心がブレーキをかけていた。
「長義くん」
そんなブレーキをいつもは山姥切と呼んでいた穏やかな声がぶち壊す。
「長義くん、山姥切の長義くん。忘れててごめんなさい。忘れておいて今更だけれど、会えて良かったわ」
無事で良かった。
生きてて良かった。
元気になって良かった
友達に囲まれていて良かった。
笑うことが出来ていて良かった。
「また、おいで。今度は裏メニュー食べに。待ってるから」
そう言って手を振る恩人な想い人。
思い出していた。思い出してくれた。
山姥切を、あの時の山姥切と認識した上で、またおいでと。
いつだ?いつ思い出した?少なくとも前回来た時はそんな素振りはなかった。
いや今日だってこうして言われるまで気付かなかったのだから分からないけれど……否、いつ思い出したかなんて些細なことだ。
「あ、の……」
けど、しかし、つまり。
嬉しさと気恥ずかしさと恋と恩とエトセトラ。
筆舌に尽くし難い感情が胸の内で暴れ回って爆発して、
「おい、山姥切?」
「ッッッ!!!!猫殺し君のばか!!!!」
「なんにゃ!!?」
いつも通り一人だったらもっとたくさん、それこそ全てを語り明かせたのに!
そんな理不尽極まりないと自覚しながらも恋がハリケーンしてるどうしようもない心のままに、出入り口で固まっていた山姥切を迎えに来た腐れ縁に反射的に拳を振りかぶった。
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翡翠琥珀@カリナと咲(プロフ) - ァ"ァ"ァ"好きぃ... (2022年3月31日 15時) (レス) @page42 id: cceed3ce75 (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - 返事がない只の屍のようだ。さん» ちょぎくんの布教が出来て嬉しいです!沼へようこそ。 (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - sesiroさん» ありがとうございます。成り鶴もよろしくお願いします (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - まるさん» ありがとうございます (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
返事がない只の屍のようだ。 - はじめまして!そして完結おめでとうございます!!大好きです!!!終わってしまい寂しいですがちょぎ君、思い出して貰えて良かったね゙ぇ〜!(T△T)ズビィ この小説を切っ掛けでちょぎ君にハマりました!ありがとうございます!!(謎)これからも頑張って下さい! (2021年3月5日 12時) (レス) id: 2157a47614 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mokohu | 作者ホームページ:http://nanos.jp/atlant2d/
作成日時:2020年12月5日 14時