【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 9

三百五十四話　［信頼関係なき連携］ ページ8

福地が持つ《雨御前》は天下無敵の剣だった。
どんな相手であろうと一刀両断し、福地の『持つ武器の性能を百倍にする』異能で無敵の剣は作られる。
だが、二つの誤算が生じた。



「…どんな名刀も、要するに金属だ」



福地の刀が、止まる。
過去へと戻ろうとする不届な刀を止めた異能者は叫んだ。



「要するに、俺のモンだ！」



誤算の一つ目は、金属である雨御前を操ることができる立原が敵となったこと。


「《動くな》」



精神を操作する異能者であるAが立原と手を組んだこと。
福地が刀を膂力で押し返そうとした瞬間、



「…ふ、」



立原の後ろで、Aの唇が不敵に笑った。
真っ赤な唇が歪み、寒気に似たものが福地の背を這う。



「無策で挑むほど私達は莫迦じゃない」



激しい痛みに耐えながら、Aはそれを自分の手から落とした。



瞬間、音速の弾丸が福地の目の前に迫る。
ほぼ同時に、発砲音が響いた。



「っ！！」



福地は咄嗟にその場から飛び退き、彼の手が、雨御前を離した。
弱点の無い福地を倒すには、この刀を奪うことが絶対条件。



「…見事だな」



福地は己の手から離れた刀を落ち着いた様子で見据えながら、頬を伝う赤い液体を拭った。



「弾丸をばら撒き、立原が操作をする。
その間に魔女の娘が発砲をし、儂の脳を狙うというわけか」



立原の金属操作の強みを生かす為、Aがばら撒いたのは弾丸だった。
一つや二つではなく、それも大量に。
普段なら出ない速度で操作された弾丸を福地が避け、背後から刀を操作して福地を狙う。
それとほぼ同時にAが福地に向けて発砲すれば刀から手を離す。



「見事な連携だな」



「悪ぃが、話してる時間はねぇんだ。それに首領が云ってたぜ。
…アンタを虫の息にしようが絶対に油断するなって」



それに、Aと立原は約束したのだ。



《貴方が私に合わせる必要はない》



《お前が死んだらどうするんだよ》



《そこら辺は気をつける。とにかく、私に合わせて貴方が死んだら本末転倒でしょ》



《じゃあどうすんだよ》



《私達に信頼関係は無いから、連携は難しい》



《…あぁ》



《だからこそ、私に合わせる必要はない》



《…》



《"私が貴方に合わせる"》



立原の背後に迫る吸血鬼、福地との戦いを邪魔する存在の体が投げ飛ばされる。



「露払いは任せて」



Aは手をパンパンと払い、拳銃のマガジンを入れ替える。



「足手まといにはならないから」

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