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あの子は何処に ページ36

ポートマフィアとの戦いは、首領の死で幕を閉じた。
未だに事後処理に追われている探偵社には、あの少女がいない。



「…彼奴は」



「…あれから、姿を見ていない。
携帯も繋がらない、社員寮にも帰っていないようだ」



芥川が苦いものを噛み潰したような顔をする。
あの気が強くすぐに喧嘩になる同期は、あの戦いの後からおかしかった。



『ごめんなさい、私のせいだ、私の!!』



駆けつけた時には、彼女はポートマフィア首領の亡骸の側で泣き叫んでいた。
悲痛な、狂ってしまいそうな叫び声だった。
見たことがないくらい取り乱した彼女は、気が触れたように死んだ男の名前を呼んでいた。



「…捜してくる」



まだ昨日の疲労が残っている筈の芥川が、静かに立ち上がった。
国木田が驚いた顔をする。



「意外だな、お前は放っておくと思っていたが…」



「無断欠勤をされて仕事に支障を出したくないだけだ」



芥川は一人、荷物をまとめて席を立つ。



『ああああああぁぁぁ!!』



あれから、あの少女の叫び声が頭から離れない。
普段はすました顔のあの女の、壊れたような姿。
その後の事後処理の最中に彼女は消えた。



『まさか』



嫌な予感がしていた。
まるであの女が遠くに行ってしまうような、消えてしまうような予感。



どうせ直ぐに帰ってくる。



そう云い聞かせ、事務所の扉を開けようとした。
だが、それより先に、扉が開いた。



「小泉…!」



見慣れた黒髪と、紫色の瞳。
そこには、Aがいた。
だが、芥川がまず抱いたのはそんな事ではなく、



「お前…誰だ?」



目の前の、優しい笑みを浮かべる少女への疑問だった。
結っていた黒髪をおろし、社員から送られた服に見慣れない砂色の外套を着ている。
胸元には青紫と赤の石のループタイをしていた。



「誰って酷いなぁ」



その女は、誰もが見惚れるような美しい笑顔で微笑む。



「私は小泉A、それ以外の誰だって云うんだい?」



紫色の目が、芥川を見つめて笑う。



「君の目の前にいるのは、他でもない私だよ?」



白い指先が芥川の頬に触れた。
ゾッとするほど綺麗に彼女は笑う。
違う、小泉Aはそんな綺麗に笑わない。
彼奴は、彼奴の本当の笑顔はもっと。



「ねぇ、そうだろう?」



もっと、子供のようなはずなのに、
その女は別人のように綺麗に、朗らかに笑った。

消えたのは→←一人だけの約束



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ゆんこ(プロフ) - 夢小説で初めて泣きました…3周くらいしても毎回泣いてしまいます、! (9月11日 0時) (レス) @page50 id: ea003ef446 (このIDを非表示/違反報告)
蒼真 - ほんとにすごいです…何回も読み返しています…その度に泣いてますよ…ほんとに天才だと思います。いやこれまじでアニメ化して欲しい。小泉ちゃん大好きです!!!! (8月19日 15時) (レス) @page50 id: c4ce57e384 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 本当に久しぶりに物語を読んで泣きました!すごく心に響いて毎度毎度わかっているのに泣いてしまいます。この物語を描いてくださってありがとうございます! (8月14日 15時) (レス) @page50 id: d710d605b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - 1年ほど前からずっと本編も番外編もBRASTも読み返しています🥹一つ一つの表現が素晴らしすぎて、同じく小説を書いているのですが勉強させてもらってます。ずっと応援し続けます! (2022年10月27日 12時) (レス) id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - 本編、番外編を見てから来ました。二人のやりとりが本当に儚くもあり、切なくもあって、、本当に涙無しでは読めないくらい感動しました。素敵な作品に出会えて本当に良かったです!このような素敵な作品をありがとうございました。 (2021年9月21日 20時) (レス) @page50 id: df8a2b67ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年11月9日 21時

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