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贖罪 ページ34

気づいたら教会にいた。
あのあとのことは、よく覚えていない。
雨が降っていた、体が濡れていた。



ーごめんなさいー



何度か転んだのだろうか、膝から血が出ている。
引き寄せられるように、教会の奥に掲げられる十字架に向かう。



ーごめんなさいー



ステンドグラスから、月の光が差し込んでいる。
雨が降っているのに、月が出ていた。



ーごめんなさいー



十字架に向かって手を伸ばす。



嗚呼、あの時みたいだ、届かないのに手を伸ばすなんて。



足がもつれ、冷たい床に倒れる。



カツン



倒れた拍子に、ずっと握り締めていたものが手から落ちる。
投げ出されたそれは、月の光に照らされて光っている。



割れた、青紫色の色のループタイ



「ああ、あ、ああ、…あ!」



赤黒い血がついていた。
石が割れていた。
あの人が、持っていたもの。



「ごめんなさっ、ごめん、なさい…!」



たかが外れたように涙が溢れ出す。



「ごめんッ、なさい…ごめんなさいッ、!」



捨てたと思っていた。
なのに冷たくなったあの人の手の中には、



ーどうしてこんなもの、持ってたんですかー



落下の衝撃で割れたループタイが握られていた。



ーどうしてですかー



私は貴方に残酷なことをしたのに。



ー私は、貴方が捨てた"探偵社員の太宰治"の欠片を拾っていたー



ー善意で、無意識のうちに欠片を拾い集めていたー



ーそれがどれだけ残酷なことかも知らずにー



決別したあの人の欠片を、約束させたくせに忘れていた私は拾い集めた。
苦しかっただろう、辛かっただろう。
私の愚かな行いが、あの人の首を絞め続けているとも知らずに。



「ごめん、なさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」



忘れるな、あれはあの人にかけた呪いだった。



ーなのに私はのうのうと、全て忘れて!!ー



震える手で握るのは、冷たい拳銃。
こめかみに当てて、引き金に指をかける。



ー罪を償えー



その命をもって、贖罪を。



「いま、いくから」



その言葉は、誰に向けられたものだったのだろう。
父か、母か、あの人か。



「ごめんなさい」



すべてを、終わらせよう。



「私にもしものことがあったら、よろしくね」



引き金を引く瞬間、そんな声が聞こえた気がした。
私をこの世に引き止めるような、優しい声だった。

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ゆんこ(プロフ) - 夢小説で初めて泣きました…3周くらいしても毎回泣いてしまいます、! (9月11日 0時) (レス) @page50 id: ea003ef446 (このIDを非表示/違反報告)
蒼真 - ほんとにすごいです…何回も読み返しています…その度に泣いてますよ…ほんとに天才だと思います。いやこれまじでアニメ化して欲しい。小泉ちゃん大好きです!!!! (8月19日 15時) (レス) @page50 id: c4ce57e384 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 本当に久しぶりに物語を読んで泣きました!すごく心に響いて毎度毎度わかっているのに泣いてしまいます。この物語を描いてくださってありがとうございます! (8月14日 15時) (レス) @page50 id: d710d605b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - 1年ほど前からずっと本編も番外編もBRASTも読み返しています🥹一つ一つの表現が素晴らしすぎて、同じく小説を書いているのですが勉強させてもらってます。ずっと応援し続けます! (2022年10月27日 12時) (レス) id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - 本編、番外編を見てから来ました。二人のやりとりが本当に儚くもあり、切なくもあって、、本当に涙無しでは読めないくらい感動しました。素敵な作品に出会えて本当に良かったです!このような素敵な作品をありがとうございました。 (2021年9月21日 20時) (レス) @page50 id: df8a2b67ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年11月9日 21時

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