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中也は、獣のような、それでいてやさしい悪魔のような笑みを浮かべた。






「なに、云って」







中也は気づいてしまったのだ。
Aが吸血鬼となり、血を欲しているのだと。
いつもは知性的で、感情も赴くまま、ましてや本能に従うなんていう行為とは程遠い少女だ。
白雪姫は白雪姫でも、彼女が食べたのは毒林檎では無く、知恵の林檎。
そう思ってしまうほど賢く、理性が強い女なのだ。






『そんな女がこうなってんなら、好機でしかねぇだろ』






Aは口を押さえ、中也から距離を取ろうとしている。
喉の渇きは尋常でない筈なのに、やはり随分精神力が強い娘だ。
気高く在ろうとするその姿に惚れたのだ。






『だが悪ぃな』







中也はグイッとAの顔をつかみ、自身の首に息がかかるくらいに押し当てた。
彼女の呼吸が一瞬止まったのが判った。






「噛めよ」







こんな好機を逃してやるほど、自分は優しい男では無い。
それはあのいけすかない元相棒も同じだろう。
まあ、こんな男に好かれたのが運の尽き。
中也はククッと喉を鳴らし、自分も大概だな、と笑う。







「"大丈夫だ、お前は何も悪くない"」







敢えて、許しの言葉を口にした。
その言葉に、Aの手がビクリと震える。







「悪いのは異能者だ、そうだろ?」







だから噛め、噛み付いて、弱みを見せてくれ。
そんな思惑を優しさで隠し、中也は微笑む。







「でも…私は…」







Aは揺らいでいた。
今すぐにでも噛みつきたい。
でも、本能に負けるなんて情けなくて出来る筈ない。







「貴方は、大切な友人で、」







だから噛めない。
その返答が、中也の逆鱗に触れたのだろう。







「んなの、どーでもいいんだよ」







その瞬間、中也は強引にAの口を開けさせると、
そのまま尖った牙を己の首筋に突き立てた。
牙が皮膚に刺さり、血がトロリと溢れる。







『あぁ、甘い』








甘くて美味しい。
Aの喉がコクリと上下する。
喉の渇きが急速におさまっていくのを感じた。







『あぁ、本当に化物みたいだ』







だが逃げたくても中也の力には敵わず、溢れる血をせめてもの応急処置で舐めるだけ。
月の下、柔らかな肌に歯を立てる吸血鬼。
飲みきれなかった血がポタリと地面に落ちた。








「…落ち着いたか?」








そっと首から口を離すと、口の周りは血で染まっていた。
それが酷く綺麗に見えて、中也はふと笑った。

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もこすけ(プロフ) - あっきーさん» 嬉しいコメントありがとうございます。人狼ゲーム、書いていても楽しかったです。考えるのはなかなか大変でしたが、喜んでいただけて良かったです。これからも応援よろしくお願いします。 (2019年11月26日 23時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
あっきー - 人狼シリーズ大好きです!本当に天才だと思います!!これからも楽しみにしています! (2019年11月25日 17時) (レス) id: d54700ef05 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - そー氏。さん» ご質問ありがとうございました。本当ですね、たった今気づきました。ありがとうございます。これからもこの作品を、よろしくお願いします。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
そー氏。(プロフ) - 返答ありがとうございました。いつもこの作品応援しています。ちなみにタイトルが「この十六」になってますよ「その十六」じゃありませんか? (2019年11月3日 9時) (レス) id: 15750ac93c (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - そー氏。さん» ご質問ありがとうございます。小泉は、普段は髪で隠れて見えませんが、首筋にホクロがあります。基本、見えるところにはありません。ちなみに母親の雪も同じです。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年8月17日 20時

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