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ガクンと力が抜け、倒れそうになる少女を抱える。
隠した目元からは涙が伝っていた。







「…傷は癒えても痕は消えないか」







Aの首筋に当てていた針を地面に落として粉々に踏み砕いた。
異能者の男はその光景に僅かに動揺を見せる。







「それ…睡眠薬塗ってあるんだね…ははっ、どうりで…」







太宰の纏う空気が冷たい。
眠った少女を撫でるその仕草は優しく、同時に男特有の執着を感じた。







「君…その子に抱いているのはただの好意じゃあないんだな」







「…それがなんだい?」







否定すらしない太宰の様子に、男は引きつったような笑みを見せた。
この男は怒っている、大切なものを傷つけられたことに。







「君には関係のないことだ」







太宰はAをそっと抱き上げると、そのまま踵を返す。







「この子は優しい、悪人でも一度は手を差し伸べるだろうさ…でもね」







目の奥に揺らめく悪意をうつしたように微笑んだ。








「私は、彼女ほど優しくも甘くもないのだよ」








そう残し、太宰はその場を後にした。
例えそのあと、例の異能者が"他組織の恨みを買って死んだとしても、それは不運"なのだから。







『お父さん』







知っていた、彼女が過去に囚われ、同時に執着していることに。







「君の中の過去は、なによりも美しく綺麗で…同時に傷痕でもあるのだね」







だからこそAはそれを愛している。
もう手に入らないものだからこそ、愛しているのだ。







「少し、羨ましいな」







夜風がそんな言葉を掻き消す。
眠った少女がせめて、全て忘れることを願う。
しかし、あんな幻でも忘れられないほど過去は大切なのだろう。






「なにも知らない方が幸せなのかもね君は」







眠る姿は何処か幼さを感じる。
せめて、今は穏やかに。







「君の父親は君を突き放したりしないさ」







きっと犯人を逃したから国木田に怒られてしまう。
だが彼女ならきっと共に怒られてくれるだろう。







「…大丈夫」







華奢な少女をきつく抱きしめ、太宰は囁く。







「君のことは、私が守るから」








誰に誓うわけでもないその言葉は湾岸の風に消えた。
早く家に帰り、目がさめるまで側にしてやろう。
そうすれば、少しくらいは。






『過去の傷痕を忘れて、私を見てくれる?』







そんな心の声など、誰にも聞こえぬまま、二人は夜の闇に消えていった。

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もこすけ(プロフ) - あっきーさん» 嬉しいコメントありがとうございます。人狼ゲーム、書いていても楽しかったです。考えるのはなかなか大変でしたが、喜んでいただけて良かったです。これからも応援よろしくお願いします。 (2019年11月26日 23時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
あっきー - 人狼シリーズ大好きです!本当に天才だと思います!!これからも楽しみにしています! (2019年11月25日 17時) (レス) id: d54700ef05 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - そー氏。さん» ご質問ありがとうございました。本当ですね、たった今気づきました。ありがとうございます。これからもこの作品を、よろしくお願いします。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
そー氏。(プロフ) - 返答ありがとうございました。いつもこの作品応援しています。ちなみにタイトルが「この十六」になってますよ「その十六」じゃありませんか? (2019年11月3日 9時) (レス) id: 15750ac93c (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - そー氏。さん» ご質問ありがとうございます。小泉は、普段は髪で隠れて見えませんが、首筋にホクロがあります。基本、見えるところにはありません。ちなみに母親の雪も同じです。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年8月17日 20時

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