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ページ12

黒い髪と、羨んだ黒い瞳。
凛とした佇まいと、何処か険しく見える表情。







「お父、さ…」







目の前に、父がいた。
いや違う、これは幻覚なのだ。
父は死んだ、あの日亡くなったんだ。
ドクドクと鳴る心臓を押さえ、それでも呼吸が荒くなる。







「A」







低く、それでいて温もりのある声。







「Aちゃん?」








太宰には見えていないようだ。
だが、そんなこと今はどうでも良かった。







「お父さ、ん…お父さん…」







優しかった父がいる。
あの日まで自分を育ててくれた父が。
幻でも、会いたかった。






「A」







父がこちらに手を伸ばす。
昔みたいに抱擁するかのように。
Aがふらりと前に出たその瞬間、






ドロリ







伸ばされた父の手が、真っ赤に染まった。







「お前のせいだ」







心臓が音をたてた。
指先が震え、歯がうまく噛み合わない。







「お前さえ生まれなければこんなことにはならなかった」







足が震えて、視界がグラグラと揺れる。








「妻を奪い、私すらも殺して楽しかったか?」







「ちが、違う、違うのお父さん」







「お前さえいなければ私も雪も幸せだったのに」








あの日、雨が降るあの日、父を殺した。
あの日自分が父を引き留めていれば生きてたのに。







「お前のせいだ」







父の血まみれの手が迫る。
顔が真っ青になり、肌が粟立つ。








『ごめんなさいお父さん、ごめんなさい』







頬を伝う涙は、"罪の子"である私が流していいものでは無いのに。
落ちた拳銃はいつのまにか手の中にあり、それをゆっくりと自分のこめかみに押し当てた。







「ごめん、なさい…私が、私が全部…」








「もういい」








ひたりと、冷たい手が目を覆った。
その瞬間、聴こえていた父の声も聴こえなくなる。







「もう自分を責めるのはやめたまえ。
君は悪くない、そう、君はなにも悪くないんだ」








「違う、私のせいで二人は」








二人だけじゃない、私がいるせいで学校も家もめちゃくちゃになった。
私さえ、罪の子さえ居なくなれば。







「"大丈夫"」








太宰の穏やかな声と共に、意識がゆっくりと溶けていく。







「"君はなんにも悪くないんだから"」








掲げていた手が落ち、体から力が抜けていく。








「"怖がることはない、おやすみ"」








記憶はそこで途切れている。

*→←傷は消えても痕は消えず [緋華様リクエスト]



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もこすけ(プロフ) - あっきーさん» 嬉しいコメントありがとうございます。人狼ゲーム、書いていても楽しかったです。考えるのはなかなか大変でしたが、喜んでいただけて良かったです。これからも応援よろしくお願いします。 (2019年11月26日 23時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
あっきー - 人狼シリーズ大好きです!本当に天才だと思います!!これからも楽しみにしています! (2019年11月25日 17時) (レス) id: d54700ef05 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - そー氏。さん» ご質問ありがとうございました。本当ですね、たった今気づきました。ありがとうございます。これからもこの作品を、よろしくお願いします。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
そー氏。(プロフ) - 返答ありがとうございました。いつもこの作品応援しています。ちなみにタイトルが「この十六」になってますよ「その十六」じゃありませんか? (2019年11月3日 9時) (レス) id: 15750ac93c (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - そー氏。さん» ご質問ありがとうございます。小泉は、普段は髪で隠れて見えませんが、首筋にホクロがあります。基本、見えるところにはありません。ちなみに母親の雪も同じです。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年8月17日 20時

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