【文スト】この世界と番外編 その十五

＊ ページ11

「すみません、責任を取ります」






「結構です」







警察らしく綺麗な九十度で頭を下げた条野に、Aは引き気味でそう返した。
ナオミが「振られましたわ」と云うと、鐵腸が「振られたな」と云う。








「すみません、まさかファーストキスだとは知らなく、
いくら貴女相手といえどあんな真似した罪悪感に押しつぶされそうです」







「いや、本当に結構です」








「貴女に邪心がないからこそ胸が痛い」








罪人相手には容赦がないのに、こういったところでは律儀だった。







『いや、でも初めてを奪われたのは事実だし…』








お堅い父に育てられたせいか、Aの恋愛知識はかなり乏しい。
まともな付き合い方も知らないが、嫁入り前の娘が公衆であんな真似をするのは駄目だと知っている。








「Aさん少し悩んでますわ」








「責任とは娶るという意味か？」








「あら、それは太宰さんが黙ってませんわ」








Aは考えた、それはもう滅茶苦茶悩んだ。
責任を取られるのは面倒だが、あれをチャラにするのは難しい。
え、付き合う？いや無理だ難易度が高すぎる。
そもそも私は十八だ、いや、もう十八だ。
え？もしかしてお母さんこの時期には既に結婚してた？
余計なことをぐるぐると考えた挙句、閃いた。








「そうか…私は平手を二発入れてしまった」








三人が「え？」という顔をする。







『いくら男といえど、顔を殴ってしまった』







父に教えられた。
もし、相手を傷つけてしまったのなら責任を取りなさいと。







「私が貴方を娶ります」








多分、この時のAは混乱しまくって疲れていた。
条野を、あまり得意としない条野を娶る(男)なんて。
頭は良いが恋愛スキルマイナスの少女の凶行に条野は固まった。







「そうだ、それがいい…うん、多分これでいいはず…？」







「んな訳あるかいこのお莫迦！！」








ゴツン！！Aの脳天に与謝野の拳が振り下ろされた。
見事に気絶したAはベシャリと崩れ落ち、与謝野がナオミに「連絡ありがとうね」と云う。






「悪かったね、この子…賢いけどちょっと恋愛面はポンコツなのさ」







与謝野とナオミに引きずられ、Aもカフェから消えた。
残されたのは、条野と鐵腸と微妙な空気のみ。






「フラれたな条野」








「…五月蝿い」








条野は唇に残る少女の柔らかさをかき消すように熱い珈琲を流し込んだ。

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