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二百五十八話 [届くことのない叫びは] ページ10

的確に標的の動きを封じた追手、坂口安吾は冷たい表情でそこに立っていた。



「困りますね、そう簡単に僕を出し抜けると思われては」


「安吾さん!聞いてください!探偵社は無実です!」



地面に倒れた敦が、痺れる体に鞭を打ち、安吾に叫ぶ。
それを見据える彼の目は冷たかった。



「本当の敵は別に居ます!貴方なら…判る筈です!信じて!!」



「…僕なら…判る筈?」



Aの指先が隠し持っていた拳銃に触れる。
いつでも、それを出せるように。


「その通り、僕なら判ります。僕の能力ならね。
…僕の異能は『モノに残った記憶を読み取る』…記憶抽出能力。
これで貴方達の逃走経路を読み取った」



安吾は云う、この能力で現場を凡て調べた、そして断言できると。



「犯人は探偵社だ、長官を刺したのも」



そう云い捨てた彼の顔に迷いは無い。


「…慥かに、乱歩さんが云ってた…『政府には記憶を読む異能者がいる』と。
それに、『捕まれば死罪は確実だ』とも…」



後ろから特殊部隊が続く足音がする。
安吾は麻酔銃を反対に持ち替え、代わりにもう一丁の銃を取り出した。



「全く…政府の秘密機関を相手に"信じて"?」



嗚呼。



「最後まで探偵社の冗談は笑えない」



安吾の銃口が敦に向けられた。
憤怒、失望、後悔、そんなものが喉からせり上がってくる激情のまま、Aはその銃口を安吾に向けた。



『信じる、本当に綺麗な言葉だ』



そのせいで自分は何度も他人に踏みにじられたと云うのに。
銃口が震える。
安吾の目はAをじっと見つめていた。
温度のない眼差しだった。



「そうやって…」



もはやこの感情は怒りを通り越していた。
悲しかった。
こんな結末になったことも、信じきれなかったことも、この光景も何もかも。



「そうやって、母の存在も消そうとしたんですか…?」



声は震えていた。
母の過去も、存在も隠そうとしていた政府への最後の問いかけだった。



『もう、届かない』



信じたかった、でももう無理なのだと悟る。
それなのに、安吾は。



「…え?」



そんな言葉を向けられた安吾は、先程とは打って変わってとても苦しそうな顔をしていた。
まるで、懺悔をするような、泣き出す寸前の子どものような顔だった。
その瞬間、全ての点が繋がった気がした。

二百五十九話 [信じた先の未来]→←二百五十七話 [どうやって信じる]



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さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス&良いお年を!! (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年5月18日 18時

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