検索窓
今日:34 hit、昨日:60 hit、合計:393,216 hit

二百五十七話 [どうやって信じる] ページ9

虫太郎が考えた作戦により、異能特務課はまんまと騙された。


「くくく、知恵を持つ者程五感は曇るものだ。
ミーミルの知恵の泉の代償に眼球を差し出したオーディンの如くにな!ふははは!」



「へえ…」



「ふうん…そう」



Aと鏡花がそう呟くと、虫太郎は判りやすく肩を揺らした。



「あっすいません」



「「別に怒ってない」」



「…にしても、よくあの土壇場で閃きましたね!」



敦が虫太郎の発想に表情を明るくさせた。
対して虫太郎は先程までの表情を曇らせ、いや、と呟いた。



「土壇場…ではない。…昔教わったのだ」



敦が、誰にと問う。
虫太郎の、何処か寂しげな眼差しは痛いほど知っていた。


「今は居ない、大切な人…ですね?」



今は亡き大切な人から教わったものは、体と心に染みつく。
Aが、武術を、知識を、生き方を父に教わったように。



『彼を助けたのは、今は亡き彼の大切な人』



敦の問いかけに答えず、虫太郎は先に進んだ。
大切な思い出は、心の中に閉まって隠して仕舞えばいい。



「…後は車を盗み、逃げるだけだ」



車を盗んだという犯罪の証拠を異能で消せば、街の監視映像から車は勿論、
盗難車を見つけたという警察の通信も消滅する。
どれだけ堂々と逃げても軍警は追って来れなくなるのだ。


『でも、本当にそんなに上手くいくのか?』



慥かに虫太郎の異能は素晴らしい。
だがこのまま逃げられるほど簡単では無い。
でも、そんな中でも。


『一つ、仮説はある。
でもそれはさっきの彼の話で壊された』



たった一つ、賭けていた。
フィッツジェラルドの会社での一件から、一つだけ。



『でもそれも今は塵に等しい』



諦めるしか無い。
敦達に続き、下水道伝いに駐車場へ行き、そこから逃げるしか無い。



「信じなさい」



一瞬、優しげな声が聞こえた。
急いで振り向くが、そこには誰も居ない。



「お母さ…」



その瞬間だった。
敦の体が倒れたのは。
彼の背中には針のようなものが刺さっている。



「敦!!」



続けて、鏡花が何かに反応して短刀をとる。
だがそれは囮で、彼女の首にも敦と同じ針が刺さった。


「こんな状況で信じろって…?」



Aは向かいから来る追っ手を睨みつけた。



「坂口参事官補佐」



麻酔銃を持った安吾がそこには居た。
憤怒が、体に湧き上がった気がした。

二百五十八話 [届くことのない叫びは]→←二百五十六話 [密室消失トリック]



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (641 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
3221人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス&良いお年を!! (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:もこすけ | 作成日時:2019年5月18日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。