二百九十四話 ［堕天］ ページ46
一瞬だった。
本当に一瞬、瞬きをしたら終わってしまうほどの一刹那。
「立原、そちらの状況はどうじゃ」
無線から��子の声がする。
震える手で、無線を口元に当てた。
「小泉Aが、カジノからッ、落下し…ました」
「！」
無線越しに��子の息遣いが聞こえた。
「…それはそれで悪い結果では無い。
カジノの支配人も同じく此処から落ちた、探偵社が途中で邪魔をしたがのう」
探偵社はやはりテロリストだった。
それでいい、それでいいはずなのに。
『信じて』
あの声が、顔が焼き付いて離れない。
どうして忘れていたのだろう。
「そうだ…彼奴あの時…一瞬だけ泣きそうな顔してた」
探偵社の窓から落とされる寸前、Aはひどく辛そうに唇を噛んでいた。
それはまるで、傷つけてしまうことを恐れたような、
意思はやりたく無いと云うのに本質がそれを出来てしまうことを嘆いているような。
「立原、おい、立原聞こえておるか」
なんで気づかなかったんだ。
彼奴は、誰かを傷つけることを恐れていた。
『お前は、そうまでして信じてもらいたかったんだな』
己の命を賭けてまで。
『あんな細い手で、俺を助けたんだな』
未だに残っている華奢な指の感覚に、立原は己の手を強く握りしめた。
「…今、なんて…？」
シグマの救助に失敗し、ホーソーンの確保は成功したが猟犬の疑いを晴らすことはできなかった。
一時的にアンの部屋に転送され、安吾と通信をはかっていたのだ。
魔人に嵌められ、未来が絶望的になった矢先の事だった。
「安吾さん…今…今なんて云いました…？」
敦の声は震えていた。
その後ろで、鏡花が真っ青な顔で口を押さえ、
モンゴメリが倒れそうになりながらその話を聞いていた。
「Aさんが…カジノから落下し、生死不明となりました」
生死不明、シグマと同じだ。
だが、生死不明とは名ばかりの表現。
「うそ、だ…」
あの高さから落ちれば生きていられる保証は皆無だ。
Aは恐らく死亡した、安吾の言葉はそれを意味していた。
「まだ死亡が確定した訳ではありませんが…軍警には死亡したという報告がなされたようです」
つまり、捜査対象から彼女は外れたのだ。
"死亡者"として、捜索する必要が無いから。
「A、ちゃん…」
痛感させられる、この世界の残酷さ。
ひどく歪んだこの世界は、仲間を容易く奪ってしまうと改めて思い知らされた。
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さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (
レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス＆良いお年を！！ (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もこすけ
| 作成日時：2019年5月18日 18時
