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二百五十一話 [脱獄への道] ページ3

天井からの訪問者に冷静さを保てない様子の虫太郎を天井から見下ろす。
先ほど、天井をくり抜く時に少し失敗したのが良くなかったのだろうか。
辺りを確認し、天井から飛び降りる。



「探偵社の敦です、貴方を助けに来ました」



虫太郎は、探偵社という単語に肩を揺らす。



「探偵社は《天人五衰》に濡れ衣を着せられました。
貴方はその罠を警告しようとして敵に捕まった」



「貴方はそれを知っていた…そうでしょう」



Aを見て、虫太郎は僅かに目を見開く。
だがそれは一瞬で、直ぐに目を伏せた。



「虫太郎さん一緒に脱出しましょう」



「…断る」



「え…!?」



虫太郎の反応は、予想に反して拒絶だった。
探偵社の到来は予想済み、狙いは敵の情報だと彼も知っている。
そして、虫太郎にとって敦達は不要だと。



「こんな酷い場所に閉じ込められて…外に出たくないのですか?」



「こういった生活には慣れている、それに」



それに、と紡いだ虫太郎の横顔は見覚えがあった。
今はもう無いなにかを追い求める、悲しい目。



「もはや外の世界に…大して興味が持てん」



今は亡き母の話をする、父の顔と同じだった。
虫太郎もまた、父と同じように。



「…鏡花」



「うん」



Aの合図に、鏡花は一歩前に出た。



「"原稿"」



背を向けていた虫太郎が勢いよく振り向く。



「その一言に、貴方は逆らえないと乱歩さんが云っていた」



虫太郎の今は亡き友人が残した、最後の原稿。
その存在に虫太郎の顔が歪む。



「…いよいよ本物の犯罪組織だなお前達」



「そうかもしれない…でも、探偵社を救う為なら私は何にでもなる」



鏡花の声にも、目にも、迷いは無い。
決意した者の目をしていた。



「…お前もそうか、魔女の娘」



虫太郎の目がAを見つめた。
やはり彼はどこかで母の存在を知っていた。
ならば、



「運命に流されるつもりは無い…だから、全てに抗ってやる」



虫太郎は目を見開いた。
この少女は本当にあの魔女の子なのだろうか。
資料で見たあの少女の血縁者なのか、と。



「こんなところで死ぬつもりは無い」



白雪姫のようでいて、それでいて誰よりも気高くあろうとするその姿は魔女には見えなかった。
だがその体に流れるのは間違い無く、罪深い魔女の血だと、彼は知っていた。

二百五十二話 [腹痛の止め方]→←二百五十話 [あの夢と脱獄犯]



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さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス&良いお年を!! (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年5月18日 18時

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