二百五十話 ［あの夢と脱獄犯］ ページ2
夢を見た。
薄暗い世界で、泣き叫び、そして赤に染まった少女の夢。
絶望を飲み下した、残酷な記憶。
「ッは…！」
車が止まる感覚に、目を開ける。
心臓が激しく鳴り、汗が滲んだ。
「なんでこんな夢…」
眠いわけでも無いのに、フラッシュバックするように見る映像。
自分の記憶には無い。
記憶力は良い方だが、あんな光景は見たことがない。
『以前からこういうことはあった…でも、これは一体…』
一つ、心当たりがあった。
でもそれを追求すれば、きっと知りたく無いことに辿り着く。
「Aちゃん、着いたよ」
荷台の扉を開け、敦が呼びに来た。
Aは頷き、乱れたフードを被り直して荷台から降りる。
両頬を叩き、気を引き締めるように前を向いた。
『拝啓ヨコミゾ殿、あの世で如何お過ごしだろうか』
心を慰めるものは何も無い、殺風景な部屋に響く万年筆が紙を滑る音。
キッチリ整えられた七三分けの髪をした男は、今は亡き友人に宛てた手紙を書く。
監獄生活を恵まれていると、自由だと嘘をのせて。
羨むような贅沢な生活だと、届かない相手に綴る。
『私は幸福だ、見せて自慢できぬのが残念だ。
だから安心しろ今や思い出す事すら全く無い』
万年筆の音が小さくなる。
『お前がもうこの世に居ない事を』
その一文を書いて、筆が手から落ちた。
自分が一番よく判っている。
頼まれて、友人を手にかけた自分が一番よく。
今でも思い出す、手をかけた首に指が沈む感覚。
判っている、判っているんだ。
それでも、やはりその事実は胸に突き刺さった。
男が顔を覆い、歯を食いしばった瞬間。
「あ、ちょっと待て失敗した」
「え、嘘、あ、ちょっ、落ちて」
凄まじい音を立てて、天井が落ちてきた。
天井のタイルの上に、白髪の青年と和装の少女をのせて。
「ごめん、失敗した」
「大丈夫、侵入は成功した」
体についた天井の欠片を落としながら、鏡花は天井から謝るAに返した。
男、虫太郎の顔はなんとも云えない顔になっていた。
『ヨコミゾよ、愚かなお前と違い、私はこんな異常事態にも優雅に冷静を保てる』
「ゼッヒ・シュテルペル・シュレッケン・ゲエト・ドゥルヒ・マイン・ゲバイン！」
全く冷静さを保てない様子で、虫太郎は叫ぶのだった。
これを乱心と呼ぶのだと、Aは天井からぼんやり思った。
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さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (
レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス＆良いお年を！！ (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もこすけ
| 作成日時：2019年5月18日 18時
