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背中越しに伝わる体温と、強く抱き寄せられた体に、抱きしめられたのだと気づいたのは少し後のことだった。






「こんな時間に外を出るのは危ないよ」







「大丈夫です」







「君の大丈夫はあてにならないからなぁ」








泣いている顔を見られたくなくて、意地でも振り向こうとしない。
それでも、ボロボロと止まらない涙が情けなかった。







「魘されていたね」








太宰の優しい声が余計に苦しかった。
弱さを見せることすら怖かった。
何も答えず黙り込んでいるといきなりヒョイっと担がれ、そのまま近くの椅子に置かれた。







「!?」







「そのまま座ってなさい」







そう云うと、太宰は備え付けの台所の方でなにやら作り出した。
この人料理出来ないはずだが、と考えながらも止める気力はなかった。
少しすると、湯気が立つカップを渡された。







「ホットミルク、蜂蜜入れたから飲みやすいと思うよ」







「…ありがとうございます」







受け取ったミルクに口をつける。
優しい甘さと温もりにじわりと温かくなる。
落ち着いてくると同時に、更に涙が溢れてきた。







「…ッ、ふ…」







折角気を使ってくれたのに、太宰に申し訳無い。
なにも云えず、ただ静かに泣くAの頭に、ふわりと手が置かれた。






「…弱さがあることは悪いことじゃあない。
辛い過去なんて早々忘れられるものじゃない、だから自分を責めてはいけないよ」







太宰の言葉に、Aは驚いたように顔を上げた。
彼は優しくニコリと笑う。






「子どもは大人に頼っていいんだから」






いつだって、周りの大人は冷たかった。
だから、自分一人の力で生きるしかなかった。







「ッ、う…ぁ…」







再び溢れてきた涙が止まるまで、太宰は頭を撫でていた。
しばらくすると、漸く涙が止まった。







「眠れそう?」







「…多分」








「うーん…じゃあこうしよう」







太宰はAを担ぎ上げると、自分のベッドに置いた。
流石にこれには彼女も驚いた顔をする。







「人肌って、よく眠れるらしいよ」







太宰はAの頭を撫でながら、優しくそう云う。







「疲れただろう、ゆっくりおやすみ」







太宰の声が、手が、温もりが心地よかった。
眠ることへの抵抗が消え、意識がゆっくりと溶けていく。







「君は、一人じゃないんだから」








Aはそのまま、導かれるようにゆっくりと目を閉じた。

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もこすけ(プロフ) - あさん» ご指摘ありがとうございます。その通りでございます。直しておきます。ありがとうございました。 (2021年11月8日 17時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
- すみません、「あの娘は誰の子?」の小雪ちゃんのセリフで「私は過去から来たんだよ」と言っていますが「未来」の間違いではないでしょうか私の勘違いや解釈違いであったら申し訳ありません (2021年11月7日 17時) (レス) @page32 id: b7271b87d8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ワンコソバさん» 折角のお話、申し訳ありませんでした。応援のお言葉、ありがとうございます。これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。 (2019年5月5日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
ワンコソバ(プロフ) - そうでしたか…。残念ですが、それからのもこすけさんが書く作品を楽しみにしてます!頑張ってください!(^○^) (2019年5月4日 20時) (レス) id: c31389e4fc (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ワンコソバさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。そういった応援はとても嬉しいです。リクエストなのですが、現在締め切っております。他作品とのコラボも、基本的にご本人様からのリクエストのみ受け付ける形となっています。折角のお話なのに、申し訳ありません。 (2019年5月4日 18時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年4月6日 19時

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