検索窓
今日:23 hit、昨日:13 hit、合計:237,157 hit

ページ14

人間は、例え親しい者が全くの別人だとしても気づくことは少ない。
それが苦難を乗り越えた仲間だとしても。
容姿も声も話し方も癖も似ている相手を、一体どうやって見分けると云うのか。







「おや、おはようA」







探偵社の朝、出勤してきた与謝野は見慣れたうしろ姿に挨拶した。
すると、彼女は振り向き、相変わらずの硬い表情で返してくる。







「おはようございます、与謝野先生」






短めに揃えられた黒髪がさらりと揺れた。
いつもと変わらない、日常。
だが、誰も気づかない。
誰もがお互いを知るこの探偵社で、一人だけ部外者がいることに。






『…判るわけない』







赤い唇が僅かに歪んだ。
彼女はたしかに小泉Aで間違いない。
ただ、境遇が違うのだ。






『本人同士の入れ替わりなんて』







あの晩、別世界から来たAは自分の主人たるドストエフスキーの為、
こちらの世界の探偵社員であるAを始末した。
ナイフで刺した後、服を入れ替え、体を川に流した。
自分を抹消することには気が引けたが、『異能のない世界』を作るためには仕方ない。






『探偵社をどうやったら葬れるか…実験させてもらう』






こうして探偵社員として彼らを欺き、元の世界で戦う為に。
Aは、こちらの世界の自分がするであろう行動をした。
誰も、疑いなんてしない。
ある程度仕事をした後、さりげなく資料室に入り情報を集めた。







「Aちゃん、ちょっといいかな?」







「はい」







警戒すべき男、太宰治に呼ばれたAは自然と背筋を伸ばした。
この男は油断できない、だって"あの人"と同じ目をしているから。







「市警から連絡があってね。爆弾騒ぎらしい。
多分、悪戯だと思うけど人手が足りないから来て欲しいって」







「はい、判りました」







現場の情報も教えてもらい、向かおうとした時、
一瞬、太宰の目がこちらをじっと見つめていた気がした。






「…どうしました?」







「…あぁ、いやなんでもない。ちょっと考え事をね。気をつけて行っておいで」







「はい」







太宰の貼り付けたような笑みが少し不気味に思った。
だが気づくはずあるまい、と探偵社を出る。
探偵社員として周りを欺く為、現場に行き、ある程度見回りをした時。







「…これは好都合」







高層ビルのロビーに仕掛けられた爆弾を見て、鼠であるAは不敵に笑った。

*→←*



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (235 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
559人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

もこすけ(プロフ) - あさん» ご指摘ありがとうございます。その通りでございます。直しておきます。ありがとうございました。 (2021年11月8日 17時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
- すみません、「あの娘は誰の子?」の小雪ちゃんのセリフで「私は過去から来たんだよ」と言っていますが「未来」の間違いではないでしょうか私の勘違いや解釈違いであったら申し訳ありません (2021年11月7日 17時) (レス) @page32 id: b7271b87d8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ワンコソバさん» 折角のお話、申し訳ありませんでした。応援のお言葉、ありがとうございます。これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。 (2019年5月5日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
ワンコソバ(プロフ) - そうでしたか…。残念ですが、それからのもこすけさんが書く作品を楽しみにしてます!頑張ってください!(^○^) (2019年5月4日 20時) (レス) id: c31389e4fc (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ワンコソバさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。そういった応援はとても嬉しいです。リクエストなのですが、現在締め切っております。他作品とのコラボも、基本的にご本人様からのリクエストのみ受け付ける形となっています。折角のお話なのに、申し訳ありません。 (2019年5月4日 18時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:もこすけ | 作成日時:2019年4月6日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。