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忘れられた。
全部、出会いも、思い出も、自分という存在も全て。





『また、一人、また、見てもらえない』







自分だけ透明になったように、誰の目にも映らない。
それがどれだけ苦しいか、よく知っている。
人混みを駆け抜け、途中、谷崎兄妹とすれ違った。
それでも二人はこちらの存在に気付きはしたが、特に反応を示さない。
それが、とてつもなく苦しかった。






『誰の記憶にも、私は存在していない』







久しぶりに感じる、底無しの孤独感。
走って、走って。
ついたのは自分がこの世界に来てはじめに触れたところ。
あの河川敷だった。






「もう、誰も覚えてないんだ…」






ここでの出会いも、無かったことにされた。
力無くその場に座り込み、夕暮れの川を見つめる。







「…」







おもむろに懐にしまってあるそれを取り出した。
十分な重さを持つそれをじっと見つめ、頭に押し当てた。
目をつぶり、指先を引き金にかけ、引いた。







「…莫迦らしい、弾なんて入れてないのに」







ジサツなんてあの人じゃあるまいし、と拳銃を下ろす。
だが、このまま誰かに忘れ去られるくらいなら…







「おやおや、こんな河原で拳銃ジサツかい?お嬢さん」






振り向かなくても判るその声に、目を伏せた。
お嬢さん、その一言が何を意味するかも知っている。






「拳銃ジサツは脳が飛び散って見栄えが良くないからやめておいたほうがいい。
どうせ死ぬなら私と入水でもいかがですか、美しいお嬢さん」







「…死ぬ気は、ない」







「なんだ…ちぇっ…それならお茶でも」







「私のこと、覚えてませんか」








太宰の言葉を遮り、そう問う。
それが最後のチャンスだった。
だが、彼の回答は無情なものだった。







「うーん…君ほどの美人なら忘れるはずないんだけどなぁ」







決意が固まった。
立ち上がり、そのまま後ろに立つ太宰の胸ぐらを掴み上げた。
紫色の目が、太宰を強く睨む。







「…例え忘れられたとしても」







赤い唇が呪いを吐くように言葉を紡いだ。
太宰のキョトンとした顔を、強く睨みつける。







「私を忘れるなんて、絶対に許さない」








決まった、もう、こうするしかない。
太宰の胸ぐらをパッと話すと、一人歩いていく。
その後ろ姿を太宰は呆然と見つめていた。







「…何処かで会ったかな?」







脳裏に焼きつく強烈な感情の色に首を傾げ、そんなことを口にした。

*→←例え忘れられたとしても [つなろ様リクエスト]



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もこすけ(プロフ) - 白織さん» コメントありがとうございます。あの二人は小泉も混ざるとかなりカオスになります。もう少し続くのでお楽しみに。 (2019年1月6日 18時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
白織 - リクエストありがとうございます!最初からカオスで笑いました。これからどうなるのか楽しみです! (2019年1月6日 17時) (レス) id: a1083074eb (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪豹さん» コメントありがとうございます。中也さん、混乱して語彙力低下してますね。笑っていただけて良かったです。 (2019年1月6日 17時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
雪豹(プロフ) - 中也の「…ごめんちょっと訳判らねぇや」で、吹いた(ノ∀≦。)ノ (2019年1月6日 17時) (レス) id: 5c79542a8a (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 玲衣さん» コメントありがとうございます。制服で夜の街を歩いたせいで太宰さんが死ぬほど職質を受けた事件です。危ない絵面に見えたのでしょう…。 (2019年1月4日 20時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年12月9日 11時

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