【文スト】この世界と番外編 その九

魔人と出られない部屋２ ［竹薮様リクエスト］ ページ39

気づいたら、またそこに居た。
一面真っ白で、吐血しそうな内容のお題をクリアしないと出られない部屋。
もう慣れた、いや、慣れたつもりだったのだろう。







「おや、またここに来てしまいましたね」







数々の因縁を持った相手の声に、Aは壁に頭をつけて現実逃避をする。
なんで、なんでまたこの男なんだ。







「魔人…」







紫の瞳に、不敵な笑みを浮かべた男。
魔人、フョードル・ドストエフスキー。







「それ以上近づいたら許さない」







「部屋の端にいるのにまだご不満ですか？」







部屋の隅同士に座るAとドストエフスキー。
かなりシュールな光景だが当の本人は必死だ。
敵が自分より上の場合、結局人間は逃げるしか無いのだ。







『やっぱり、怖い』






チラリと魔人の方を見ると、彼は涼しげな笑みで微笑んだ。
対するAは苦いものを噛んだような表情で目を逸らした。







『ようこそ出られない部屋へ』








モニターから聞こえる無機質な声にもうなにも感じなかった。
今は兎に角、この男の前から去れればそれで。







『お題は…相手と一分抱き合うこと』








その瞬間、Aは引きつった悲鳴をあげ、魔人は興味深そうに目を細めた。
モニターは頑張ってくださいと無機質に云い放ち、消えた。







「…では、早めにやってしまいましょうか」







「む、り…抱き合う…？………はぁ？」








「貴女、混乱すると一周回って怒りを覚えるタイプでしょう」







殺意に満ちた目で暗転したモニターを睨むその姿は様になっていた。
Aはお題の内容も「抱き合う、一分…」と繰り返し、口を押さえて崩れ落ちた。







「だ、れと…抱き合えって…」







「ぼく以外に人が見えたとしたらそれはそれで問題です」







抱き合う？この男と？
同じ空間に居ることすら恐怖を抱く彼と？
巫山戯てるのかと苛立ちすら覚えた。







「…ですが、貴女が嫌なら仕方ありませんね」








え、と顔をあげると彼は妖艶な笑みを浮かべていた。
嫌な感覚に背筋が震える。







「死ぬまで貴女と居るのも悪くないと思っただけですよ」







死ぬまで、その台詞にAは唇を噛み締めた。
そして、震える手をぐっと押さえ込み、深く息を吐いた。







「構わない、やってやる」








死ぬのも、貴方と心中するのもごめんだ。
そう伝えると彼は不敵な笑みを浮かべ、クスリと笑った。

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