【文スト】この世界と番外編 その九

＊ ページ17

自分も友達の一人や二人いればこういう所にも来たのだろう。
だが生憎、あちらでは人間関係に恵まれなかった自分にはこんな所無縁だった。






「お、おい…特大の地雷を踏み抜いた気がしたぞ…」







「いや…確かに地雷は地雷だけど、あれは小さい。
本気で彼女の地雷を踏めばまず間違いなく殴られて吐瀉物を見るような目で見下ろされる」






「…それは実際に体験した上での発言か？」







「想像に任せるよ」







太宰と国木田がコソコソと話をする。
その光景をなに話してるんだろう、と思っていると紅葉がいきなりAを自分の方に抱き寄せてきた。







「可哀想にのう…なんと悲しいことを云うのじゃ…」






着物の袖で頭を撫でられ、恥ずかしくなり払おうとするが紅葉はがっしり掴んで離そうとしない。
鏡花に助けを求めるが、あちらはあちらで敦のフォローに向かっていた。
ならば、と中也の方を見ると彼は静かに目をそらした。






「…中也さん」







「そんな目で見るんじゃねぇ。
…あ、曲が始まったな、悪ぃな、俺じゃ役不足だ」







「…」







「Aや、何か食べるかえ？」







「〜ッ子どもみたいに扱うな」







「あはは、確かにAちゃんから見たら姐さんは」







「太宰貴様」








さりげなく自分の方に引っ張る太宰と紅葉の間で火花が散る。
なんでこの人たち張り合ってるの。
Aは腕が引きちぎれそうになりながら、そう思った。
すると、耳に中也の歌声が入ってきた。







「…上手なんですね」








低い声でありながら、何処か色気がある。
聞き入ってしまう中也の声に、珍しくAが彼をじっと見つめた。







「あ？そうか？」







「この人の心中の歌、酷いですから」







「あ！酷い！あれが私の本気だと思ってるでしょ！」






あれが本気でしょうという目で見られた太宰。
それが、好きな女の前でいい格好をしたいという男の判りやすい競争心に火をつけた。







「よし、対決だ。全員歌って、一番点数が高かった人の優勝。
優勝者は要望を一つ聞き入れてもらえる、それでどうだい」







要望が一つ通る。
その魅力に勝てるものは結果として居なかった。
やたら面倒くさい展開になったことで、Aは頭を押さえた。
カラオケは純粋に興味はあるが、この面子でやると毎回物騒になる。
どうしてこうなったのだろう、と紅葉に引っ張られながら再び思った。

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