【文スト】この世界と番外編 その九

中学生への指導 ［あまも様リクエスト］ ページ14

ある日の喫茶処うずまき。
いつもは探偵社員達がくつろいでいるそこで、Aの冷ややかな声が響いた。





「そこ、間違ってる」






「うっす」






「返事は『はい』だって教えたはずだけど」







「は、はい…」







給仕をしていたモンゴメリがあそこだけ南極だわ、と怯える。
机に広げられた教科書とノート。
それとにらめっこをする中学生の男子生徒とその向かいで教師のように指導をするA。







「そこ、また間違ってる。公式はそれじゃなくてさっきの方程式で」







こうなった発端は三日前。
依頼をしたご婦人が難しい依頼料の計算を簡単に暗算でするAを見て、相談してきたことから始まる。






「ねぇ、貴女お勉強はお得意？」







「…一応、自信はあります」







「うちの子ね、勉強が苦手なのよ。
だからやろうとしなくてね、家庭教師をつけたのだけど男は嫌って云うのよ」






「…」







「あの子、モテないのに理想だけは高くて」






辛辣だなこの人。
後ろで聞いていた国木田はなんともいえない表情になった。
ご婦人はAの両手を掴んで叫ぶ。






「どうか！うちの子に勉強を教えてやってください！！」







「…駅前に評判の良い塾があります」







遠回しに塾に行けと云うAだが、ご婦人は引かない。






「勿論タダでとは申しません！お代は払いますわ！！」







「素人ですし、私なんかより元教師の国木田さんの方が」







国木田が目で、俺を巻き込むなと云ってくる。
ご婦人はいえ、貴女でないと！と引かない。







「受けてくださればこの三倍はお支払いしますわ」







そう云って、ご婦人が茶封筒を渡してきた。
受け取り中身を見て、Aは目を見開く。
下手したらこの前の依頼料よりも多い。
それよりなにより、子どもの為に必死になる親を邪険に出来なかった。






「…お受け、いたします」








その後、例のモテないが理想は高く、勉強が嫌いな息子とうずまきで勉強を始めたのだが、
結果から云うと息子は本当に勉強が嫌いだった。
初日から逃亡をはかったので、縛り上げた。






「私は貴方のお母様から依頼を受けた。
仕事である以上、手は抜かない。
泣こうが逃げようが絶対に成績をあげてやるから覚悟しろ」





脅しなのか励ましなのか判らないことを云うAに、
息子は「俺が好きなのは可愛いお姉さんタイプであって女王様タイプじゃない…」と呟いた。

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