【文スト】この世界と番外編 その四

＊ ページ38

少女の姿に義母が驚きの声をあげる。



「貴女…A…！？」



「ふふ、私は貴方達が道具にしようとした少女ではありませんよ」



ゾッとするほど美しい笑みを浮かべた少女に気丈に振る舞っていた義母の顔が恐怖と憎悪で歪む。



「人が私利私欲で動くのは当たり前なこと。
貴方達の人らしい強欲は本当に素晴らしいと思います。
ですが…今回は相手が悪かったですね」



あの異能者も恨みに取り憑かれさえしなければ"死ぬ"こともなかったのに。
魔女という存在に消されることもなかったはずだ。



「なに、よ…貴女、一体なんなのよ！」



初めて声を荒げた義母を彼女は楽しげに見つける。
そして、自身を睨みつける黒い瞳を見て、なにかを思いついたように笑った。



「私は貴方達に恨みはありませんが…罪を背負ったなら償わなくてはいけません。
大丈夫です、"全てが終われば"元の世界に戻してあげますから」



「え…」



魔女は一枚の紙を持ち、笑った。
その紙がなんなのか二人が判るはずもない。
ましてや、"書いたことが現実になる本の一頁"だとは夢にも思わないだろう。



「あぁ、その前に罰を与えますね」



やっと帰れる安心感に浸る二人に近づき、魔女は美しく微笑んだ。



「例え元の世界に戻って…"左目が無くなっていても"貴方達はなにも覚えてませんから」



次の瞬間、魂が消えるような絶叫が響き渡った。



「…あら、まだ居たのですか」



「一応お礼を云いに、ね」



外で待っていた太宰に魔女はクス、と笑う。
その手は血に濡れていた。



「今回の事は全て"無し"になります。別世界との関わりはあまり良くないでしょう」



ぱらりと一枚の頁を掲げ、魔女は、雪は微笑んだ。
彼女があの紙に今回の事件は初めから存在しなかったと書けばその通りになる。



「一つ、いいかい」



「なんですか？」



「あの子を突き落とした相手を消したのは君かい？」



「…さぁ、どうでしょうね」



二つの世界を巻き込んだイレギュラー。
それは本来の姿に戻される。
あの夫婦も、こっちの世界には来ていないということにされる。



「…そういう事にしておくよ」



太宰の返答に雪は微笑むと、あっという間に消えた。
双方の世界を巻き込んだ大事件は、本という力によって人々の記憶から消された。
こうして、また日常が戻ってきた。

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