【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました

六話 ［申し込み拒否は楽じゃない］ ページ8

混乱してきた。
こんなに混乱したのはいつぶりだろう。



「はぁぁぁ…」



顔にかかる前髪をかきあげる。
するといきなり腕を掴まれた。



「！？」



「美しい…」



「はぁ！？」



それは太宰だった。
何故か目をキラキラさせてAを見つめている。



「お嬢さん！どうか私と心中を！！」



「心中…？」



この太宰治という男、美しい女性が居れば所構わず心中を申し込むような男なのだ。
長い髪をかきあげたAは敦が御伽噺の主人公のようだと思った通り、とても美しいのだ。
触れるのも躊躇うほどの美貌は何処か異次元じみていた。



「雪のように白い肌！貴女は白雪姫のようだ！！」



「うわ…あ、敦…助けて」



「どうすれば…！？」



「お嬢さん！」



「興味ない」



「そう云わずに！！」



カオスを極める現場は、
最終的に反対側に来た国木田が太宰の脳天に拳をぶつけてどうにかおさめた。



「…疲れた」



賑わいを見せる食事処の中心。
傍に大量の茶漬けの椀を積み上げ、茶漬けをこれでもかとかかき込む白髪の少年。
そんな少年の隣で黒い制服に赤いスカーフの少女が積み上げられた椀を数えていた。



「すごい…一杯食べるのに五分もかかってない…」



茶漬けをかき込む敦とは対照的にAは何も頼まずお冷のみを飲んでいる。



「おい太宰早く仕事に戻るぞ」



「えー、私まだこの子と心中してな」



「仕事中に突然『良い川だね』とか云いながら川に飛び込む奴がいるか」



「うわ…」



「おかげで見ろ。予定が大幅に遅れてしまった」



「国木田君は予定が好きだねぇ。Aちゃん甘味頼む？」



「要りません」



国木田がバンッと机に手帳を叩きつける。
そこには『理想』と書かれていた。



「これは予定表では無い！理想だ！我が人生の道標だ」



国木田の話に熱が入る。



「そしてこれには『仕事の相方がジサツ嗜癖』とは書いてない」



「それはどの手帳にも書いてないと思います」



なかなか居ないだろう。ジサツ嗜癖の相方など。
むしろ居る方が凄い。
意味もなく手の中のグラスを揺らす。



「ぬんむいえおむんぐむぐ？」



「五月蝿い。出費計画の頁にも『俺の金で小僧が茶漬けをしこたま食う』とは書いてない」



そりゃそうだろう。
それにしても敦滅茶苦茶食うな、と積み上げられた碗を見て思った。

七話 ［身の上話は憂鬱になる］→←五話 ［太宰治という男は］

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す