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四十話 [中原中也という男] ページ42

様々な運命の糸が絡み合っていることなど露知らず、
Aは何かを思い出したかのように中也に話しかけた。



「…図書館の行き方ぁ?」



「ここから一番近い図書館でいいの」



「…手前ェこの街の奴じゃねぇのか?」



コクリと少女は頷く。
中也は思わず聞いてしまった。



「…どっから来たんだよ」



その問いに彼女は一瞬戸惑いを見せ、小さく云った。



「…遠い所」



紡がれたその言葉に「は?」と返してしまいそうになり、慌てて言葉を飲み込んだ。
もう会えないのか。
嫌な想像が頭の中を埋め尽くす。



「でもしばらく此処にいる。
あそこに帰るつもりも予定もない」



「…そうか」



良かった。そう思ってしまった。
安堵からか、肩から力が抜ける。



「こっから図書館は三つ目の信号を右だ」



「三つ目の信号…分かった」



「つーか路地の出方分かるか?
なんだったら出口まで案内して」



「いや、いい。全部覚えてるから」



「そーかよ、全部覚えて…は?」



この入り組んだ路地を?
同業者ですら迷うことがある迷路のような此処を?



「あ…えっと、あ…」



中也の反応に彼女はハッとして目を泳がせる。
またやってしまった、そう言わんばかりに。
なんでそんな顔をするんだ。
誇れることなのに。
何故か苛立ちを感じた。



「へぇ…すげぇじゃん」



思った事をそのまま云ってやれば
驚いたように紫の目を見開く。



「あ、ありがとう…そんなこというなんて、貴方は良い、人だ」



嗚呼まただ。
良い人、マフィアの自分にそう云った少女に心を乱される。



「そろそろ行く…ありがとう」



「おー…」



路地の先に消えて行く少女を見つめ、中也はハッと気づく。



「手前ェ!名前は!!」



少女は漆黒の髪を靡かせながら振り返る。
赤い唇が言葉をかたどる。



「小泉…小泉A」



A、Aと彼女の名前を呟く。
今度は自分の名を彼女に知ってもらう番だ。



「俺は中原中也だ。また会おうぜ」



少女はコクリと頷くと路地の奥に消えた。
中也もAとは逆の路地に歩いて行く。
機嫌が良さそうに鼻歌まで歌って闇に消えた。



「…中原中也?」



Aは口元を引きつらせ、
先ほどまで中也が居た路地を見つめた。



「あの人、異能者じゃないの…?」

四十一話 [本の城での遭遇]→←三十九話 [意思は脆くも美しい]



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太宰の包帯希望者 - シリアスううううう!めっちゃ好みです!更新頑張ってください (2月5日 22時) (レス) @page21 id: efd9a7d1a1 (このIDを非表示/違反報告)
条野さんの鈴飾り食べたい - ネタが思いつかないので申し訳ないのですがこちらの『この世界で生きるのは不可能という結論が出ました』の小泉ちゃんとコラボさせて貰っても宜しいでしょうか?誠に勝手で申し訳ございません。 (2022年12月17日 11時) (レス) id: 36ec43f1b9 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 碧さん» ご指摘ありがとうございます。実はあえて意味がおかしい英語にしています。その話自体がギャグのような内容なので、正しい英文より、日本語に直すと面白い英文の方が良いかと思い、あえて間違った内容にしております。 (2021年12月14日 7時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 二十三話太宰の中のドラムになってませんか? (2021年12月12日 18時) (レス) @page25 id: 6588339009 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ルチアーノさん» ご指摘ありがとうございます。直しておきます。 (2021年3月23日 20時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年3月11日 14時

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