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三十七話 [調子は狂うためにあるらしい] ページ39

中也は傷口を押さえながらチラリと横目で少女を見る。
彼女の周りの空気は静かで、彼女自身も人形のように静かだ。



「…なに」



紫色の瞳がこちらを向く。
端正な顔立ちに、その瞳は恐ろしくよく合っていた。
中也はそんな瞳に見つめられながら、
バツが悪そうに云った。



「…さっきは疑って悪かった」



気が立っていたこともあるが、
なにも知らない彼女を疑い、少なからず危害を加えようとしていた自分を恥じる。
すると、彼女はじーっと中也を見つめ、皮肉げに云った。



「謝れたんだ」



「手前ェは俺をなんだと思ってんだよ!!」



「警戒心剥き出しの野良猫みたいなもの」



「手前ェ…!」



仕返しと言わんばかりに馬鹿にしてくる彼女に中也は声を荒げる。
中也の反応にAはほんの少しだけ笑った。



『こいつ笑うとあどけないんだな…』



澄ました顔のくせに、笑うときは子供のようだった。
イタズラが成功した子供のように笑う。



「さっきはあれだけ警戒心剥き出しだったのに」



「それは手前がいきなり現れるからだろ…」



「それにしたって真っ当な善意を随分疑ってた」



「それは…その、悪かった」



「…まあ判らなくもないけど。
全く知らない他人だし、こんなところで会った人なんて信じられないでしょう」



彼女の瞳に影が差す。
中也はその目を見て言葉を失った。



「他人からの善意って大抵裏があるから…」



その目は、よく知っていた。
裏で生きる上では必ず見るもの。
黒い感情を持つ者の、全てを諦めた目。
紫玉に黒い闇が混ざる。



「ッおい!」



「なに?」



見飽きてきた目。
闇に沈んだものの、仄暗い眼差し。
あんなの今更見ても同情も嫌悪も抱かないのに。



「…手前、なんつー顔してんだよ」



少女の頭をくしゃりと撫でる。
彼女は驚いた顔をした。
そして、少しだけ安心したような顔をした。



「ッ…」



その表情に目を奪われる。
また、まただ。
こんな子供に調子を狂わされる。



『なんだってんだよ…!』



何故か傷口ではなく、胸がツキリと痛んだ気がした。

三十八話 [マフィアの忠告]→←三十六話 [彼女は何者か]



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太宰の包帯希望者 - シリアスううううう!めっちゃ好みです!更新頑張ってください (2月5日 22時) (レス) @page21 id: efd9a7d1a1 (このIDを非表示/違反報告)
条野さんの鈴飾り食べたい - ネタが思いつかないので申し訳ないのですがこちらの『この世界で生きるのは不可能という結論が出ました』の小泉ちゃんとコラボさせて貰っても宜しいでしょうか?誠に勝手で申し訳ございません。 (2022年12月17日 11時) (レス) id: 36ec43f1b9 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 碧さん» ご指摘ありがとうございます。実はあえて意味がおかしい英語にしています。その話自体がギャグのような内容なので、正しい英文より、日本語に直すと面白い英文の方が良いかと思い、あえて間違った内容にしております。 (2021年12月14日 7時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 二十三話太宰の中のドラムになってませんか? (2021年12月12日 18時) (レス) @page25 id: 6588339009 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ルチアーノさん» ご指摘ありがとうございます。直しておきます。 (2021年3月23日 20時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年3月11日 14時

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